英雄たちの探求 Текст

Из серии: 魔術師の環 第一巻 #1
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英雄たちの探求

(魔術師の環 第一巻)

モーガン・ライス

モーガン・ライス

モーガン・ライスは、ヤングアダルト・シリーズ、「ヴァンパイア・ジャーナル(全10作)」の著者でベストセラー作家。同作品は6ヶ国語に翻訳された。

モーガンの作品には、未来を舞台に世紀末後を描いたアクション・スリラー、「サバイバル・トリロジー」があり、ベストセラーとなった「アリーナ1」、「アリーナ2」はその最初の二冊。

作品には他に、#1ベストセラーとなった壮大なファンタジーシリーズ「魔術師の環」があり、現在10作目まで発表され、続々刊行予定。

読者からのお便りを待っています。www.morganricebooks.comをぜひご覧ください。

モーガン・ライス 賞賛の声

「ライスは設定を単純に描き出す次元を超えた描写で最初から読者をストーリーに引きずりこむ・・・とても良い出来栄え、一気に読んでしまう。」-ブラック・ラグーン・レビューズ(「変身」評)

「若い読者にぴったりのストーリー。モーガン・ライスは興味を引くひねりをうまく利かせている・・・新鮮でユニーク、ヤング・アダルト向けの超常的な物語に見られる第一級の要素を持った作品。シリーズは一人の少女を中心に描かれる・・・それもひどくとっぴな!・・・読み易くて、どんどん先に進む・・・ちょっと風変わりなロマンスを読みたい人におすすめ。PG作品。」-ザ・ロマンス・レビューズ(「変身」評)

「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」-パラノーマル・ロマンス・ギルド (「変身」評)

「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」- vampirebooksite.com(「変身」評)

「プロットが素晴らしく、特に夜でも閉じることができなくなるタイプの本。最後までわからない劇的な結末で、次に何が起こるか知りたくてすぐに続編が買いたくなるはず。」-ザ・ダラス・エグザミナー(「恋愛」評)

「トワイライトやヴァンパイア・ダイアリーズに匹敵し、最後のページまで読んでしまいたいと思わせる本!アドベンチャー、恋愛、そして吸血鬼にはまっているなら、この本はおあつらえ向きだ!」- Vampirebooksite.com(「変身」評)

「モーガン・ライスは、才能あふれるストーリーテラーであることをまたもや証明してみせた・・・ヴァンパイアやファンタジー・ジャンルの若いファンほか、あらゆる読者に訴えかける作品。最後までわからない、思いがけない結末にショックを受けるだろう。」-ザ・ロマンス・レビューズ(「恋愛」評)

モーガン・ライスの本

魔術師の環

英雄たちの探求(第一巻)

王の行進(第二巻)

ドラゴンの饗宴(第三巻)

名誉の闘い(第四巻)

栄光の誓い(第五巻)

勇者の進撃(第六巻)

剣の儀式(第七巻)

武器の授与(第八巻)

呪文の空(第九巻)

盾の海(第十巻)

サバイバル・トリロジー

アリーナ1:スレーブランナー(第一巻)

アリーナ2:(第二巻)

ヴァンパイア・ジャーナル

変身(第一巻)

恋愛(第二巻)

背信(第三巻)

運命(第四巻)

欲望(第五巻)

婚約(第六巻)

誓約(第七巻)

発見(第八巻)

復活(第九巻)

渇望(第十巻)



オーディオブックで、「魔術師の環」シリーズを聴こう!


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本書はフィクションであり、作中の名称、登場人物、社名、団体名、地名、出来事および事件は著者の想像または創作です。実在の人物・故人とは一切関係ありません。

目次


第一章

第二章

第三章

第四章

第五章

第六章

第七章

第八章

第九章

第十章

第十一章

第十二章

第十三章

第十四章

第十五章

第十六章

第十七章

第十八章

第十九章

第二十章

第二十一章

第二十二章

第二十三章

第二十四章

第二十五章

第二十六章

第二十七章

第二十八章

「王冠をいだく頭は、ついに安らかに眠るということがない。」


—ウィリアム・シェークスピア

ヘンリー四世、二部

第一章

少年はリング(環)の西王国の低地でもっとも高い丘に立ち、北に向かって最初の太陽が昇る瞬間を見つめていた。らくだのこぶのようにうねり、広がる緑の丘が、上下しながら谷や峰へと連なるさまを、見える限り遠くまで。昇る日が放つ灼けるようなオレンジ色の光が朝もやの中にとどまり、きらめいて、光に魔法をかけているようで、それが少年の気分と調和していた。少年がこれほど早く起き、家からこれほど離れた場所まで出かけてくるのはめずらしい。 そしてこれほど高い場所に登るのも。父の怒りを買うことはわかっていた。だがこの日はそんなことは気にならなかった。今日は、この14年間彼を押さえつけてきた無数のきまりや仕事を無視した。いつもとは違う日だからだ。彼の運命がやってきたのだ。

マクレオド族が住む南の地方、西王国のソアグリン。ソアと呼ばれるのを好むことで知られていたこの少年は、4人兄弟の末っ子、父親からは一番嫌われていた。ソアはこの日が来るのを予想し、一晩中起きていたのだ。寝返りを打ち、目をかすませながら、最初の太陽が昇るのを心待ちにしていた。こんな日は数年に一度しかやってこない。そしてそれを逃したら、この村に埋もれたまま、一生父親の羊の群れを世話しながら暮らす運命にあるのだ。考えただけで耐えられないことだった。

徴兵の日。それは軍隊が村々を勧誘して回り、王の軍団、リージョンの新兵を選ぶ日だった。ソアはそれだけをずっと待ち望んできた。彼にとって人生とはただ一つ、2つの王国中最高のよろいを身にまとい、選りすぐりの武器を帯する国王の精鋭部隊、シルバー騎士団に入団することだった。まず14歳から19歳までの従者の集団であるリージョンに入らなければシルバー騎士団に入団することはできない。そして貴族や有名な戦士の息子でない限りリージョンに入る方法はなかった。

徴兵の日は唯一の例外だった。何年かに一度、リージョンの人数が少なくなってくると、国王の兵隊が新しい入隊者を求めて国中探し回るのだった。平民からはほとんど選ばれないことを誰もが知っていた。そして実際にリージョンに入隊する者は更に少ないことを。

ソアは立ち尽くし、何か動きがないかと地平線を一心に見つめていた。シルバー騎士団が、この、村へと続く唯一の道を通ることはわかっていた。自分が最初にそれを見きわめる者でありたいと思った。連れてきた羊たちは、山を下りて草がもっと上等の低地に連れて行けとばかりに、周りでうるさく、不平がましい声を一斉にあげて抗議し始めた。ソアは雑音と悪臭を締め出そうとした。集中しなければならない。

何年もの間、羊の群れの世話をし、気にもかけてもらえず重荷ばかり背負わされる、父親や兄たちのしもべとして仕えてきた日々。それを耐えうるものにしてくれたのは、いつかこの地を離れるのだという思いだった。いつか、シルバー騎士団がやってきて、自分を見くびっていた者たちを驚かせ、選ばれる。素早い動きとともに、彼は騎士団の馬車に跳び乗り、全てのことに別れを告げる。

ソアの父親はもちろん、自分のことを真剣にリージョンの候補として考えてくれたことなどない。実際、何かしらかの候補として考えたことさえなかった。代わりに、父は自らの愛情と注意をすべて3人の兄たちに向けていた。一番上の兄は19歳で、他の兄たちはそれぞれ1歳ずつ離れていた。ソアは一番下の兄とも3歳も離れていた。皆、年が近かったためか、それとも互いに似通っていてソアだけが似ていなかったためか、3人はいつも一緒で、ソアの存在など認めてもいないふうだった。

そのうえ、彼らはソアよりも背が高く、体格も良く強かった。ソアは、自分の背が低くはないのはわかっていたが、彼らと並ぶと自分が小柄で、筋肉質の脚も彼らのオーク樽のようなそれに比べればかよわい気がしていた。父親は違いを縮めようとするどころか、むしろそれを楽しんでいるようにさえ見えた。兄たちは家に残して鍛え、その間ソアには羊の世話をさせ、武器を研がせる。話に出たことはなかったが、ソアが出番を待つばかりの人生、兄たちが立派な功績を挙げるのを見ているだけの人生を送ることはいつだって理解していた。父や兄たちが自分たちの思い通りにするのであれば、ただそこに居て、この村に飲み込まれ、家族が要求する助けを与えるのがソアの宿命だった。

もっと悪いことには、兄たちが皮肉にも彼に脅威を感じ、恐らく憎んでもいるのをソアは感じ取っていた。兄たちが自分を見る視線や仕草の一つ一つにそれが見て取れた。どうしてかはわからないが、ソアは彼らに恐れや嫉妬のような何かを感じさせた。 それはたぶん、彼が兄たちとは違っていて、似てもいなければ、話し方にも兄たちの独特の癖がなかったからであろう。着るものさえ違っていた。父は紫や緋色のガウン、金箔を施した武器など、一番良いものを兄たちのために取ってしまい、ソアには最も粗末なぼろの服しか残されていなかった。

それでも、ソアは衣服をぴったり自分に合わせるやり方を見つけ、仕事着の腰に帯を巻いたりして、ある物を最大限に使っていた。夏になったので袖を切り、そよ風が引き締まった腕を撫でていく。そのどれもが、一張羅のぼろ麻のズボンや、すねまで紐で編み上げる粗末な革のブーツに似合っていた。兄たちの靴の革にははるかに及ばないものの、きちんと使えるようにしていた。服は典型的な羊飼いのものだった。

しかしソアの外見はそうではなかった。背が高くほっそりとしていて、気高く誇らしげなあご、高い頬骨や灰色の目は、退役した戦士のようだ。まっすぐな茶色の髪は耳を過ぎた辺り、またその後ろまで波打ち、眼は光を受けた小魚のようにきらきら輝いていた。

兄たちは朝も寝ていることを許され、食事もたっぷり与えられたうえで最高の武器と父親の祝福とともに選抜に出かけるのであろうが、ソアは行くことさえ認められないだろう。ソアは、一度父親とその問題について話そうとしたが、うまくいかなかった。父は即座に話を打ち切ったため、その後は何もしていない。まったく不公平だ。

ソアは、父が用意した宿命を拒む決心を固めた。国王の軍団が見えてきたら、家に走って戻り、父と対決し、父の意向に関わらず軍に自分の存在を知らしめるつもりだ。他の者と同様、選抜に望むのだ。父は止めることができないだろう。そのことを考えると胃が締めつけられるような気がした。最初の太陽が高く昇り、二番目の太陽が昇り始める時、紫色の空に一筋の光を放つミントグリーンの色が見えた。軍団だ。

ソアはまっすぐ立ち上がった。衝撃で髪が逆立っている。地平線にうっすらと馬車の輪郭が現れた。車輪がほこりを空に舞い上げながら。ソアの鼓動が速くなる。2台目だ。金色の馬車が太陽にきらめくのがここからも見える。水中から飛び跳ねる銀色の魚のようだ。

12台目を数えるころには、ソアは待ちきれなくなってきた。動悸がして、羊の存在を生まれて初めて忘れた。ソアは振り向くと丘をころげながら下りた。自分のことを知ってもらうまで決してあきらめないと心に決めた。

*

ソアは止まって息を整えようともせず、丘を走り下り、木々の間を抜けていく。枝でひっかかれても気にも留めない。空き地まで来ると目の前に広がる村を見下ろした。平屋の、白土でできたわらぶき屋根の家がひしめく穏やかな田舎町。そこには数十軒の家庭があるだけだ。煙突から煙が上る。ほとんどの者がもう起きてきて朝食の準備をしている。のどかな土地だ。国王の宮廷からは馬で一日はかかる距離で、立ち寄ろうと思う者もいない。西王国の歯車の一つに過ぎない、リングの端に位置する農村だ。

ソアは村の広場まであともう少し、ちりを蹴り上げながら駆け下りて行った。鶏や犬がソアをよける。湯が沸騰する大がまの前にしゃがんでいた老女がなじった。

「ゆっくり行きなさいよ!」ソアが走り去る時、ちりを火にまき散らしながら金切り声を上げる。

だがソアはペースを落としたりしない。老女のためにも、誰のためにも。脇道を一つ曲がり、また一つ、覚えている道をくねくねと曲がりながら家にたどり着いた。

白土で、傾斜したわらぶき屋根の他の家となんら変わらない、小さな特徴のない住まいだ。ほとんどの家屋同様1つしかない部屋が分かれており、片側が父の寝る場所、もう片側を3人の兄が使っていた。他の家と違うのは、家の裏に鶏舎があることだった。ソアは押しやられて、ここで寝泊まりしている。最初は兄たちと二段ベッドに寝ていたが、彼らは成長してますます意地悪に排他的になり、ソアの居場所はないという素振りを見せてきた。ソアは傷ついたが、今では自分だけのスペースを楽しんでいる。兄たちと離れていられるほうが好い。以前からわかっていたことだが、家族から除け者にされているのがはっきりしただけのことだ。

ソアは正面の扉に向かって走り、止まりもせずに駆け込んだ。

「お父さん!」息を切らせて叫んだ。「シルバー騎士団がやってくるんだ!」

父と3人の兄たちは、朝食の並ぶ食卓を囲んで背中を丸めて座っていた。一番良い服に既に着替えてある。その言葉を聞いて皆いっせいに立ち上がり、ソアを素通りして駆けていく。家から外の道に出るとき、ソアの肩にぶつかって行った。

ソアが後から出て行くと、皆はそこに立ったまま地平線を見つめていた。

「誰も見えないよ。」一番上のドレークが低い声で答えた。誰よりも肩幅があり、他の兄たちと同じように髪を短く刈り込んである。茶色の目と、薄く非難めいた唇をしている。その兄が、いつもと同じようにソアを上からにらみつけた。

「俺もだ。」ドロスが言う。ドレークより1歳下で、いつも兄の側につく。

「来るんだ!」ソアは言い返した。「誓うよ!」

父親がソアのほうを向き、肩をきつくつかんで問いただした。「どうしてわかったんだ?」

「見たんだ。」

「どうやって?どこから?」

ソアは躊躇した。父にはわかっている。ソアが軍団を見つけられるとしたら、山の上しかないということを知っているのだ。どう答えたらよいかソアには分からなくなった。「ぼく・・・丘に登ったんだ。」

「羊と一緒にか?そんなに遠くに行かせたらいけないのはわかっているだろう。」

「でも今日は特別だったから。どうしても見ずにはいられなかったんだ。」

父はしかめっ面をする。

「中に入ってすぐに兄さんたちの剣を取ってくるんだ。それから鞘を磨け。軍団が到着する前に、立派に見えるよう身なりを整えるんだ。」

父はソアとの話が終わると、道に立って外を見ている兄たちのほうを振り返った。

「僕らが選ばれると思うかい?」3人のうち一番下のダースが尋ねる。ソアの3歳上だ。

「選ばれないとしたら、あいつらはどうかしてる。」父親が言った。「今年は人が不足しているらしい。あまり人を採らないできたからな。でなければ、わざわざ来るものか。まっすぐに立っていればいいんだ。3人ともだ。あごを上げたまま胸を突き出す。あいつらの目を直視するんじゃないぞ。 目をそらしてもだめだ。強く、自信たっぷりでいるんだ。弱みを見せちゃいかん。国王のリージョンに入りたかったら、既にその一員のように振舞うんだ。」

「はい、お父さん。」3人の息子はすぐに答え、準備をした。

父は振り返り、ソアをにらみつける。

「そんなところで何をしている?」父は言う。「家に入りなさい!」

ソアは迷いながらそこに立っていた。父親に逆らいたくはないが、話をしなければならない。考えると心臓がどきどきした。言いつけに従って、剣を取り、父に立ち向かうのはそれからにしようと決める。すぐに逆らっても何の役にも立たない。

ソアは走って家に戻り、奥の武器小屋に行って兄たちの剣3本を見つけた。どれも銀の柄を持ち、美しい。父が長年こつこつと働いて贈った貴重なものだ。3本をまとめて取ると、いつもながらその重さに驚く。剣を抱えて家の中を通って引き返す。

兄たちのところへ駆け寄り、それぞれに剣を渡すと、父のほうへ向き直った。 「磨き粉はないのか?」とドレークが言う。

父がとがめるようにソアのほうを向く。が、父が何か言う前にソアが切り出した。「お父さん、お願いです。話があります!」

「磨けと言っただろう・・・」

「お願いです、お父さん!」

父は考えながらにらみ返した。ソアの表情に真剣さを見たのだろう、やがて「何だね?」と言った。

「ぼくも、皆と同じように候補に入れて欲しいんです。リージョンの。」

後ろで兄たちの笑い声が起こった。ソアは顔が赤くなった。

だが父は笑わなかった。それどころか顔が一層険しくなった。

「お前がか?」 と尋ねると、ソアが勢いよくうなずいた。

「ぼくはもう14歳です。資格があります。」

「14歳は最低年齢だ。」ドレークが肩越しに軽蔑したように言う。「もし軍団がお前を採るとしたら、最年少ということになる。5歳も上の俺みたいな者を差しおいてお前を採ると思うか?」

「お前は生意気なんだよ。」とダースが言う。「いつもそうだ。」

ソアは皆に向かって言った。「兄さんたちには聞いていない。」

父のほうに向きなおった。まだ厳しい表情だった。

「お父さん、お願いです。」ソアは言った。「チャンスを下さい。お願いするのはそれだけです。まだ若いのはわかっています。でも時間をかけて自分の力を証明していきます。」

父は首を振った。

「お前は戦士じゃない。兄さんたちとは違うんだ。羊飼いだ。お前の人生はここにある。私と一緒にいるんだ。お前は自分の仕事をうまくやっていく。高望みをするものではない。自分の人生を受け止めて、それを好きになるよう努めなさい。」ソアは自分の人生が目の前で壊れていくのを見て、心臓が張り裂けそうな気がした。だめだ、彼は思った。こんな事あっていい訳がない。

 

「でもお父さん・・・」

「黙りなさい!」父は叫んだ。その声の鋭さに空気が緊迫した。

「もうたくさんだ。軍団が来る。お前はどきなさい。軍団がここにいる間、自分の行いには十分気をつけるんだ。」

父は一歩進み出ると、見たくもない物ででもあるかのように片手でソアを脇へ押しやった。父の肉付きのよい手がソアの胸を刺した。

ガラガラいう大きな音が沸き起こり、町の人々が家から出てきて道に並んだ。雲状のちりが軍団を先導する。やがて彼らが12台の馬車に乗り、雷鳴のような音を響かせながら到着した。

軍団は大きな集団で突然町に入り、ソアの家の近くに止まった。馬はそこに立ち、荒い鼻息で飛び跳ねていた。ほこりが鎮まるまでしばらくかかった。ソアはよろいや武器をのぞこうと躍起になった。シルバー騎士団をこれほど間近で見るのは初めてだった。心臓が鳴った。

先頭の雄馬に乗っていた軍人が、馬から下りる。ここにいるのは本物のシルバー騎士団のメンバーだ。光る鎖かたびらに包まれ、ベルトには長い剣、ロングソードを携えている。年は30代のように見える。顔には無精ひげ、頬に傷跡があり、鼻が戦闘で曲がった、生身の人間だ。ソアがこれまで見たなかで一番がっしりした男だった。体の幅は他の者の2倍はある。皆を指揮する立場だとわかる落ち着きを備えていた。

彼はほこりっぽい道路に飛び降りた。道端に並んでいる少年たちに近づく時、拍車が鳴った。

村の端から端まで、直立不動の姿勢で期待に胸を膨らませながら立つ少年たちでいっぱいだった。シルバー騎士団への入団は名誉、戦闘、名声、栄光の人生を意味する。土地、肩書、そして富も。それは最高の配偶者をめとり、最も良い土地を与えられ、栄光の人生を歩むことだ。家族にとって名誉となる。リージョンへの入隊はその第一歩だ。

ソアは大きな金色の馬車を観察し、大勢の入隊者を乗せられるのがわかった。王国は広大で、寄るべき町はいくらでもある。自分が選ばれるチャンスは思っていたよりも低いことがわかり、息をのむ。この少年たちに勝たなければならない。相当な強者揃いだ。それに自分の3人の兄たちもいる。気分が落ち込んでいった。

ソアは、軍人が候補者の列を見定めながら静かに歩いてくる時、息をすることもできなかった。彼は通りの向こうの端から始め、ゆっくりと回った。ソアはもちろん他の少年たちをすべて知っていた。家族が軍に送り込みたいと望んでいても、本人は選ばれたくないと密かに思っている少年が数人いることも。怖いのだ。そういう少年たちは良い兵士にはなれない。

ソアは屈辱感で熱くなった。自分は、他の者と同じくらい選ばれる価値があると思った。兄たちが自分よりも年上で体が大きく強い、というだけでは、自分が立ち上がって選ばれる権利がないということにはならないではないか。父への憎しみが膨れ上がり、軍人が近づいたときには、皮膚から飛び出しそうなくらいだった。

軍人は、兄たちの前で初めて足を止めた。彼は兄たちを上から下まで眺め、感心したようだった。手を伸ばして鞘の一つを取ると、硬さを調べるかのように引っ張った。そして笑みを浮かべた。

「まだ戦いで剣を使ったことがないんじゃないか?」とドレークに尋ねた。

ソアはドレークが緊張しているのを生まれて初めて見て、つばを飲み込んだ。

「いえ、ありません、上官どの。ですが、練習では何度も使ったことがあります。ですから・・・」

「練習では!」

軍人は大きな声で笑い、他の兵士たちのほうを向いた。皆ドレークの顔を見て笑い始めた。

ドレークは顔が真っ赤になった。ドレークが恥ずかしい思いをしているのは初めて見た。いつもはドレークが皆に恥ずかしい思いをさせていたから。

「それなら敵に君を恐れるように、と必ず告げよう。剣を練習で扱ってきたから、と!」

兵士たちはまた笑った。

軍人はそれから他の兄たちのほうを向き、「同じ家から3人の息子か。」とひげを撫でながら言った。「これは使えるな。みな良い体格をしている。実戦がまだだがな。選ばれたら大変な訓練が必要だぞ。」

そこで彼はやめた。

「場所は用意できそうだな。」

彼は後ろの車両に向かってうなずいた。

「乗るんだ。速く。私の気が変わる前にな。」

ソアの3人の兄は馬車へ向かって一目散に走って行った。父も走っていくのにソアは気づいた。

皆が行くのを見ながらすっかり意気消沈してしまった。

軍人は振り返り、次の家へと進んだ。ソアはもう我慢できなかった。

「上官どの!」ソアが大声で言った。

父がこちらを向いてにらんだ。ソアはもはや気にしない。

軍人はこちらに背中を向けたまま立ち止まり、それからゆっくりと振り返った。

ソアは心臓をどきどきさせながら2歩前へ進み、できる限り胸を突き出し、

「上官どのはまだ私を候補に入れていらっしゃいません」と言った。

軍人は驚いて、冗談ではないかと思いながらソアを上から下まで眺めた。

「入れていなかったと?」聞きながら彼は吹き出した。

兵士たちも笑った。だがソアは気に留めなかった。今こそ自分のための瞬間だ。この時を逃したらもう先はない。

「リージョンに入隊したいです!」ソアは言った。

軍人がソアに歩み寄った。

「知っているかね?」

彼は面白がっているようだった。

「“もうすぐ14歳になるのかな?」

「もうなりました、上官どの。2週間前に。」

「2週間前!」

軍人は甲高い声を上げて笑った。背後の兵士たちもだ。

「それならば、敵は君を見て震え上がることだろう。」

ソアは屈辱で熱くなるのを感じた。何かしなければ。こんな形で終わらせることはできない。軍人は背を向けて立ち去ろうとしたが、ソアはそうさせなかった。

ソアは前に進み出て、大声で言った。「上官どのは間違えておられます!」

皆が恐怖のあまり息をのんだとき、軍人が止まってゆっくりとこちらを向いた。

今度は顔が険しい。

「なんてばかな子だ。」父はそう言ってソアの肩をつかんだ。「家に入っていなさい!」

「入るものか!」ソアは父の手を振り払いながら叫んだ。

軍人がソアのほうへ歩み寄ったので、父は後ろへ下がった。

「シルバー騎士団を侮辱した場合の罰を知っているのか?」ぴしゃりと言った。

ソアの心臓が激しく鼓動する。それでも後には引けないと思った。

「お許しください、上官どの。」父が言った。「まだ子どもですから・・・」

「そなたに話しているのではない。」と軍人は言った。容赦のない目つきでソアの父を退けた。

軍人はソアのほうを向き、「答えなさい!」と言った。

ソアは息が詰まって声も出ない。こんなはずじゃなかった。

「シルバー騎士団を侮辱するのは国王陛下を侮辱することである。」ソアは従順に覚えていたことを唱えた

「いかにも」軍人が言った。「つまり、私がそう決めたら鞭打ちの刑40回を受けることになる。」

「侮辱するなんて考えてもいません、上官どの。」ソアは言った。「選ばれたかっただけです。お願いです。ずっとそれが夢だったのです。お願いします。入隊させてください。」

軍人は立ち尽くし、次第に表情が和らいでいった。しばらくしてから首を振った。 「君はまだ若い。気高い心を持っているが、まだ時期尚早だ。乳離れしたら戻ってきなさい。」

それだけ言うと彼は振り向いて、他の少年には目もくれずに行ってしまった。そして馬に素早く乗り込んだ。

ソアはがっかりして立ったまま、軍団が行動を起こすのを見つめた。到着した時と同じ速さで去って行った。

最後にソアが見たのは、後部の馬車に座っている兄たちだった。とがめるような目で嘲りながらこちらを見ていた。ソアの目の前で、馬車で連れて行かれるのだった。ここから、より良い人生へと。

心の中で、ソアは死んでしまいたい気持ちだった。

彼を包んでいた高揚した気持ちが引いていくのと同時に、村人たちはそれぞれの家へ帰って行った。

「お前はどれほどばかなことをしたかわかっているのか?」父がソアの肩をつかみながらきつく言った。「兄さんたちのチャンスをつぶすことになったかも知れないのをわかっているか?」

ソアは父親の手を乱暴に振りほどいた。父は再び手を伸ばし、ソアの顔を手の甲で叩いた。

刺すような痛みを感じ、父をにらみ返した。生まれて初めて、父に殴り返したい気持ちが自分の中に芽生えたが、それを抑えた。

「羊をつかまえて戻しなさい。今すぐに!戻っても食事があると思うな。今晩は夕食抜きだ。自分のしたことをよく考えてみなさい。」

「もう戻らないかも知れないさ!」ソアはそう叫ぶと丘に向かって家を出て行った。

「ソア!」父が叫ぶのを村人たちが立ち止まって見ていた。

ソアは早足で歩き、そして走り始めた。ここからできるだけ遠くへ行ってしまいたかった。夢がすべて打ち砕かれ、泣いて、自分の涙が頬を伝っていることにさえ気づいていなかった。

第二章

ソアは、怒りではらわたが煮えくり返る思いを抱えながら丘を何時間もさまよった後、選んだ丘の上に腰をおろした。脚の上で腕を組み、地平線を眺めた。馬車が消えていくのを、時間を経てもなお残る雲状のほこりを見つめた。

もう軍団が村にやってくることはないだろう。今となっては、自分はこの先何年も次のチャンスを待ちながらこの村にとどまる運命にある。たとえそれが二度とやってこないとしても。もし父が許してくれさえしたら。これからは家で父と二人だけだ。父は自分にありったけの怒りをぶつけてくるだろう。自分はこれからも父親のしもべであり続けるだろう。そして年月が経ち、自分もやがて父のようになるのだろう。兄たちが栄光と名声を手に入れる一方で、ここに埋もれ、つまらない日々を送る。血管が屈辱で焼けるようだ。これは自分が送るべき人生ではないということが彼にはわかっていた。

ソアは自分に何ができるか、どうしたら運命を変えられるか知恵を絞って考えたが、何も浮かばなかった。これが、人生が自分に配ったカードなのだ。

数時間座ったままだったが、やがて落胆した様子で立ち上がり、歩き慣れた丘を横切りながらずっと高く登り始めた。否応なく、羊の群れのいる高い丘のほうへと漂うようように戻って行った。登っていく時に一番目の太陽は沈み、二番目の太陽が最も高い位置につき、緑がかった色合いを投げかけていた。ソアは時間をかけてゆっくり歩きながら、特に考えもなく、長年使って革のグリップがすり切れた投石具を腰から外した。腰にくくりつけてある袋に手を伸ばし、集めた石を手で探った。良い小川から拾ってきた、滑らかな石で、鳥や、また時にはねずみに当てることもあった。長年の間に染み付いた習慣だ。最初は何にも当たらなかったが、そのうち動く標的をしとめたことも一度あった。それからソアのねらいは確実になった。今では投石はソアの一部となっていた。それに怒りをいくらか解消するのに役立った。兄たちは丸太に剣を突き通すことができるだろうが、石で飛ぶ鳥を落とすことはできない。

ソアは無心で投石具に石を置き、背中をそらせると、父に向かってそうするかのように全力で投げた。遠くの枝に当たって、ばっさりと落ちた。動いている動物を殺すこともできるのに気づいてからは、自分の持つ力が怖くなり、何も傷つけたくないと思って動物をねらうことはやめた。今では的は枝だ。が、きつねが羊の群れの後をつけてきたときは別だ。やがてきつねは近づかないことを学んだ。そのためソアの羊は村で一番安全が保証されている。

ソアは兄たちのことを、今彼らがどこにいるのかを考え、腹が立った。馬車で丸1日行けば王の宮廷に到着するだろう。ソアにはそれが見えるようだ。盛大なファンファーレと共に到着し、美しい衣服を身にまとった人々が彼らを迎える。戦士たちも挨拶を返す。シルバー騎士団のメンバーたちだ。彼らは迎え入れられ、リージョンの兵舎内に住む場所を、王の訓練場を、最高の武器を与えられる。それぞれ有名な騎士の見習いとして任命される。いつかは彼ら自身も騎士となり、自分の馬、紋章、そして見習い騎士を持つことになる。祝祭にはすべて参加し、王の食卓で食事をとる。特権を与えられた生活。だが、それはソアの手をすり抜けた。

ソアは気分が悪くなってきたが、それを意識から消し去ろうとした。だができなかった。彼の一部が、どこか深いところで自分に向かって叫んでいた。あきらめるな、もっと素晴らしい運命が用意されているのだ、と彼に言う。それが何かはわからなかったが、ここにないことだけはわかる。ソアは、自分は他の人と違っていると感じていた。特別なのかも知れないとさえ。誰も理解しえない何か。誰もが過小評価している彼の何か。

ソアは最も高い丘に着いたところで羊の群れを見つけた。訓練が行き届いているので、皆ばらばらにならずに、手当たり次第に満足そうに草を食んでいた。羊たちの背中に彼自身がつけた赤い印を探して数を数えた。数え終わった瞬間、凍りついた。1頭足りない。

何度も数えなおした。やはり1頭いない。信じられない思いだった。

ソアは羊を見失ったことなど今まで一度もない。 父はこの償いさえさせないだろう。もっと嫌なのは、羊が荒野に一頭だけで迷い、危険にさらされているということだった。罪のないものが苦しむのは見たくなかった。

ソアは頂上まで走り、はるか遠く、いくつもの丘の向こうの地平線をくまなく探し、見つけた。一頭の、背に赤い印をつけた羊を。群れのなかでも暴れんぼうの羊だ。逃げ出しただけでなく、よりによって西の方角、暗黒の森へ向かったことがわかり、ソアの心は沈んだ。

ソアは息をのんだ。暗黒の森は禁断の場所だ。羊だけでなく、人間にとっても。村境の向こうへは、歩き始めた頃から決して行ってはいけないと知っていた。もちろん行ったことなどない。道もなく、邪悪な動物の住む森に入ることは死を意味すると言い伝えられてきた。

ソアは考えをめぐらしながら暗くなりつつある空を見上げた。自分の羊を行かせるわけにはいかない。素早く動けば、暗くなるまでに連れ戻すことができるかも知れない。

一度だけ後ろを振り返ったのを最後に、ソアは西へ、暗黒の森へと全力で疾走した。空には暗雲が立ち込めている。沈み込む心とは裏腹に、足はどんどん前へ進む。いくらそうしたくても、振り返るものかとソアは思った。悪夢へ向かって走るようだった。

*

ソアは丘も止まることなく走り下り、空が暗く覆われた暗黒の森へと入って行った。森の入り口で道は途切れている。道のない領域へと入って行く。足の下で夏の葉が砕ける音がした。

森に入った瞬間、暗闇に包まれた。光は頭上高くそびえる松の木に遮られている。中は寒かった。森の境を超えるとき、寒気がした。暗闇のせいでも、寒さのせいでもない。何か別の理由によるものだ。何とも言えないもの。何かに見られている、そんな感覚だ。

ソアは、風に揺れてきしる、こぶだらけで、自分よりも太い古木の枝を見上げた。森に入ってからまだ五十歩というところで、奇妙な、動物の音を聞いた。振り返ると、自分が通ってきた入り口はもう見えない。早くも出口が存在しないような気になっていた。ソアはためらった。

暗黒の森はいつも町の外側、そしてソアの意識の外にあった。深く、神秘的な何か。森に迷い込んだ羊を追うことは、今だかつてどの羊飼いもしたことがなかった。ソアの父でさえそうだった。この場所にまつわる言い伝えは暗く、根強かった。

だが今日は何かが違った。ソアはもはやそれが気にならず、風に注意を向けていた。彼の中に、境界を広げ、家からできるだけ遠くへ行きたい、自分がどこへ連れて行かれるかは人生に任せようという思いがあった。

ソアは更に奥へと進んだ後、どちらへ進んだらよいかわからず足を止めた。足跡や、羊が通ったと思われる場所の枝が曲がっているのに気づき、そちらへ向きを変えた。しばらくしてまた曲がった。

1時間もしないうち、ソアは迷って途方に暮れてしまった。来た方角を思い出そうとしたが、もうわからない。不安で胃が落ち着かない。が、唯一の出口は前方にあると思い、進み続けた。

ソアは遠くに一筋の光を見出し、そこへ向かった。気づくと、わずかな開けた場所の手前に来ていた。その端で足を止め、根が生えたように動けなくなってしまった。自分の目が信じられなかった。

ソアに背を向けて、長く青いサテンのガウンをまとった男が目の前に立っていた。いや、人間ではない。立った位置からソアはそう感じ取った。別の何かだ。ドルイドかも知れない。背がすらりと高く、頭はフードで覆われ、微動だにしなかった。この世に注意を払うことなどないかのように。

ソアはどうしてよいかわからずに立ち尽くしていた。ドルイドは話に聞いていても、出会ったことはなかった。ガウンにつけられた印、丁寧な金の縁取りから、ただのドルイドではない。王家の印だ。国王の宮廷のものだ。ソアには理解できなかった。王家のドルイドがここで何をしているのだろう?

永遠のようにも思われる時間が経った後、ドルイドがゆっくりと振り返り、ソアに顔を向けた。ソアも彼の顔を認め、息が止まりそうになった。王国で最も知られた者の一人、国王のドルイドだったのだ。何世紀もの間、西の王国の王たちに相談相手として仕えてきたアルゴンだった。宮廷を遠く離れた暗黒の森の中で何をしていたのか、謎だった。ソアは自分の想像なのではないかと思った。

「今目にしていることは、思い違いなどではない。」アルゴンはソアを真っ直ぐに見つめながら言った。

まるで木々が話しているような、深みのある、遠い昔から響いてくるような声だった。彼の大きく透んだ目は、ソアを見通し、貫くようだった。ソアは、太陽の正面に立っているかのように、アルゴンが放つ強力なエネルギーを感じた。

ソアは直ちにひざまづき、頭を垂れた。

「わが君」と彼は言った。「邪魔をいたしました。申し訳ありません。」

国王の相談役への不敬は投獄または死に値する。ソアは生まれたときからそう教え込まれていた。

「小年よ、立ちなさい。」アルゴンは言った。「ひざまづいたほうが良いなら、私からそう言っていたであろう。」

ソアはゆっくりと立ち上がり、彼のほうを見た。アルゴンは数歩近寄ると、立ったままソアが居心地悪くなるほど見つめた。

「そなたは母親の目をしている。」とアルゴンは言った。

ソアは驚いた。自分の母親に会ったことも、父親以外に母のことを知っている者に会ったこともなかったからだ。母は出産の時に亡くなったと聞いていた。ソアはいつもそのことで罪の意識を感じていた。家族が自分を嫌うのもそのためだと思っていた。

「誰かと勘違いをされているのではないかと思います。」ソアは言った。「私には母はおりません。」

「母がいないと?」アルゴンは微笑みながら尋ねた。「男親だけで生まれたというのか?」

「わが君、母は出産のときに亡くなったという意味でございます。私のことを誰かとお間違えではと思います。」

「そなたはマクレオド族のソアグリン、4人兄弟の末っ子、選ばれなかった者であろう。」

ソアは目を大きく見開いた。どう解釈したらよいのか分からなかった。アルゴンのような位の高い者が自分のことを知っているとは。自分の理解を超えたことだった。村の外に自分のことを知っている者がいるとは考えたこともなかった。

「どうして・・・お分かりになるのですか?」

アルゴンは微笑んだが、答えなかった。

ソアは急に好奇心が湧いてきた。

「どうして・・・」ソアは言いかけたが、言葉に詰まった。「どうして私の母を知っておいでなのですか? どのように母に会われたのですか? 会ったことがおありですか? どんな人だったのですか?」

アルゴンは振り返り、歩き去った。

「次に会った時に質問しなさい。」と言った。

ソアは不思議な気持ちでアルゴンを見送った。目のくらむような、不思議な出会いだった。あっという間の出来事だった。アルゴンを行かせまいとして、急いで後を追いかけた。

「ここで何をなさっていたのですか?」ソアは急いで追いつこうとしながら尋ねた。アルゴンは古い象牙の道具を使って、速く歩いているように見えた。 「私を待っておられたのではありませんよね?」

「他に誰を待っていたというのじゃ?」アルゴンが尋ねた。

ソアは追いつくのに必死だった。開けた場所を後に、森に入って行った。

「なぜ私なのですか? なぜ私が来るとご存じだったのですか? 何が目的だったのですか?」

「質問が多い。」アルゴンは言った。「そなたばかりが話しているではないか。人の話も聞くのじゃ。」

ソアは、なるべくしゃべらないように努めながら、アルゴンの後を追い、深い森の中を通っていく。

「はぐれた羊の後を追ってきたのじゃな。」アルゴンが言う。「見上げたものだ。しかし時間の無駄であったな。生き伸びられないであろう。」

ソアは目を見開いた。

「どうしておわかりになるのです?」

「そなたが、少なくとも今はまだ知らぬ世界のこともわかるのじゃよ。」

ソアは、追いつこうとしながら考えた。

「話を聞こうとはしないのだな。それがそなたという者なのだ。頑固で。母親と同じだ。羊を助けようと追い続けるのであろう。」

ソアは、自分の考えをアルゴンに読まれて赤くなった。

「そなたは元気の良い若者じゃ。」アルゴンは更に言う。「意志が強く、誇り高い。良い性質だが、いつかそれで足をすくわれる。」

アルゴンは苔の生えた尾根を登り始めた。ソアは後を追う。

「国王のリージョンに入りたいのであろう。」アルゴンが言った。

「そうです!」ソアは興奮して答えた。「私にもチャンスはあるでしょうか?あなたが実現させることはできますか?」

アルゴンは笑った。深い、うつろな声にソアの背筋が寒くなる。

「わしは何でも起こせるし、何も起こせないとも言える。そなたの運命は既に決まっているのじゃ。選ぶのはそなた次第だが。」

ソアには理解できなかった。

尾根のてっぺんに着くと、アルゴンはソアのほうに顔を向けた。ほんの数フィートしか離れていなかったので、アルゴンのエネルギーがソアを焼き尽くすようだった。

「そなたの運命は重要なのだ。」アルゴンは言った。「運命を捨ててはいけない。」

ソアは目を大きく開いた。運命?重要?誇らしい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。

「なぞかけのような話し方をなさるので、私にはよくわかりません。もう少し説明してください。」

突然、アルゴンが消えた。

ソアには信じられなかった。四方を見回し、耳をそばだて、考えた。全部想像だったのだろうか?妄想だろうか?

ソアは振り向いて木を調べた。この尾根の高みからはより遠くまで見ることができた。遠くに動くものが見えた。音を聞き、自分の羊だと確信した。

苔だらけの尾根を転げ下り、音のする方へ森を戻って行った。進みながら、アラゴンとの出会いがソアの頭から離れることはなかった。現実に起きたこととは思えなかった。ここで国王のドルイドが何をしていたのか、なぜここなのか? 彼は自分を待っていた。なぜだ?自分の運命とは何のことを言っていたのか?

なぞを解こうとすればするほど、わからなくなった。アラゴンは、進んではいけないと警告しながら、同時にそうするよう誘惑した。ソアは進みながら、何か重大なことが起こるような虫の知らせを感じていた。

曲がり角を回ったとき、眼前の光景を見て足が止まった。一瞬にして、悪夢が現実のものとなった。毛が逆立ち、この暗黒の森に足を踏み入れるという重大な過ちを犯したことを悟った。

ソアと向かい合い、30歩と離れていない場所にサイボルドがいた。四足で立ち、のそりのそりと動く馬ほどの大きさの筋肉質の体は、暗黒の森、いや恐らく王国中で最も恐れられている動物のそれだった。ソアは実物を見たことはなかったが、話に聞いたことはあった。ライオンに似ているが、ずっと大きく、体は深い緋色、目は黄色く光っていると。赤い色は、あどけない子どもたちの血の色からきていると言うのが伝説だった。ソアは今までに何回かこの動物を見たという話を聞いたが、どれも疑わしいとも聞いていた。それはこの動物に出会って生きて帰った者がいなかったからであろう。サイボルドを森の神であり、何かの前兆だと考える者もいる。何の前兆なのか、ソアには全く考えが及ばない。

ソアは慎重に後ろへ下がった。

サイボルドは巨大なあごを半分開けながら立ち、牙からは唾液を垂らし、黄色い目でこちらを見ていた。口にはソアの迷子の羊をくわえて。羊は叫び声を上げ、体の半分を牙に切り裂かれて逆さにぶら下がっている。虫の息だ。サイボルドは獲物をゆっくりと楽しみ、拷問に喜びを見出しているかに見えた。

叫びを聞くのはソアには耐えられなかった。羊は震え、無力で、ソアは責任を感じた。

ソアは振り返って逃げたい衝動にかられたが、それが無駄だということもわかっていた。この動物は何よりも走るのが速いだろう。逃げたところで相手をより大胆にさせるだけだ。それに羊を見殺しにすることはできなかった。

立ったまま恐怖に凍りつきながら、何か行動を起こさねばならないことはわかっていた。ソアの運動神経にバトンが渡った。ゆっくりと袋に手を伸ばし、石を出すと、投石具にはめた。震える手でそれを引き、一歩前に出て石を投げた。空中を伝い、標的に当たった。完璧な投石だった。羊の目玉に当たり、脳を貫通した。

羊はぐったりとなった。死んだのだ。ソアは羊を苦しみから解放したのだった。

サイボルドは、自分のおもちゃをソアが殺したことに怒り、にらみつけてきた。巨大なあごをゆっくりと開け、羊を落とした。羊はバサッという音を立てて地面に落ちた。サイボルドはソアにねらいを定めた。

深く、邪悪な声を腹の底から出してうなった。サイボルドがソアに向かって歩き始めた時、ソアは心臓をどきどきさせながら次の石を投石具に置き、手を置いて再び撃つ準備をした。

サイボルドが疾走を始めた。それはソアが今まで見た中で何よりも速い動きだった。ソアは一歩前に進み出ると、サイボルドが自分のところに到達する前に次の石を投げる時間はないのを知りつつ、当たることを願いながら石を放った。

石は右目に命中し、相手を倒した。すごい投石だった。もっと小さな動物たちならばひれ伏すほどの。

だが、相手は小さな生き物などではなかった。獣を止めることはできない。負った怪我に金切り声を上げながらも、スピードを緩めることさえない。目を片方失い、脳に石を残し、それでも一心にソアを襲い続けた。ソアにできることはなかった。

一瞬の後に、獣はソアの上にいた。大きな爪でソアの肩を強打した。

ソアは叫んで倒れた。3本のナイフで肉を切り裂かれたようだった。熱い血がその瞬間どっと流れた。

獣はソアを四足で地面に押さえつけた。象が胸の上に立っているかのような、とてつもない体重だ。ソアは肋骨が砕かれるのを感じた。

 

サイボルドは頭を反らせ、口を大きく開けて牙を見せたあと、ソアの喉元めがけて下を向いた。

その瞬間、ソアは手を伸ばしてサイボルドの首をつかんだ。硬い筋肉を握るようなものだ。ソアはしがみつくこともほとんどできなかった。牙が下りてきた時、腕が震え始めた。ソアは顔一面にサイボルドの熱い息がかかるのを、首に唾液が流れてくるのを感じた。獣の胸の奥からごろごろ言う音が聞こえ、ソアの耳は燃えるようだった。死ぬのだ、と思った。

ソアは目を閉じた。

神様、お願いします。力をお与えください。この生き物と戦わせてください。お願いです。何でも言うことを聞きます。受けた恩に深く感謝いたします。

その時何かが起きた。ソアは体の中にとてつもない熱が起こり、血管を通じて流れるのを感じた。エネルギー場が自分自身の中をすべて駆け回っているようだった。目を開け、驚くべきものを見た。自分の手のひらから黄色い光が放出し、獣の喉に抵抗できるだけの驚異的な力を得て相手を寄せ付けなかった。

ソアは抵抗を続け、ついには相手を押し返した。力がみなぎり、砲弾のようなエネルギーを感じた。その直後にサイボルドを少なくとも10メートルは後ろに飛ばし、獣は背中から地面に落ちた。

ソアは起き上がった。何が起きたのかわからなかった。

獣は体勢を立て直し、憤然と突進してきた。今度はソアも前と違う。エネルギーが彼の全身を伝い、今までにないパワーを感じている。

サイボルドが空中に飛び上がった時、ソアは身をかがめ相手の腹をつかんで投げ、勢いにまかせて飛ばした。

獣は森の間を飛んで行き、木にぶつかって地面に落ちた。

ソアは驚いて振り返った。自分は今サイボルドを投げたのか?

獣は2回瞬きをした後、ソアを見て再び挑んできた。

今度は、獣がとびかかる瞬間ソアが喉元をつかんだ。双方とも地面に倒れこみ、サイボルドがソアにまたがった。が、ソアが転がり、獣の上になって相手を抑え、両手で窒息させようとした。獣は頭を上げて牙で噛み付こうとし続けたが、的を外した。ソアは新たな力を感じて手で押さえつけ、相手を離さなかった。エネルギーが自分の中を流れるのに任せると、驚くべきことに獣に勝る力を感じた。

サイボルドを窒息させ、死に追いやった。獣はぐったりとなった。

ソアはその後も1分間は手を離さなかった。

彼は息を切らしてゆっくりと立ち上がり、目を見開いて見下ろし、傷ついた自分の腕を抱きしめた。今起きたことが信じられなかった。この僕が、ソアが、サイボルドを殺したのか?

彼は、今日というこの日、これが印なのだと感じた。 重大なことが起きたように思えた。王国で最も知られ、最も恐れられている動物をし止めたのだ。たった一人で。武器を使わずに。本当のこととは思えなかった。誰も信じやしない。

彼はそこに立ち、めまいを感じながら、自分を圧倒したのは一体何の力だったのだろうと考えた。それは何を意味するのか、自分は本当は何者なのか。このような力を持つことで知られているのはドルイドだけだ。父も母もドルイドではない。自分がそうである訳がない。

それともそうなのだろうか?

ソアは突然背後に人の気配を感じた。振り返るとアルゴンがそこに立ち、動物を見下ろしていた。

「どうやってここまで来られたのですか?」ソアは驚いて尋ねた。

アルゴンは彼を無視した。

「今起きたことをご覧になったのですか?」ソアはいまだ信じられない思いで尋ねた。「自分でもどうやったのかわからないんです。」

「わかっておるのじゃろう。」アルゴンが答えた。「 自分の奥深くで。そなたは他の者とは違うのだ。」

「まるで・・・力がほとばしるようでした。」ソアは言った。「自分が持っているとは知らなかった力のような。」

「エネルギー場じゃな。」アルゴンが言う。「いつかよくわかる日が来る。それをコントロールすることさえできるようになるかも知れん。」

ソアは肩をつかんだ。耐え難い痛みだ。見下ろすと、手も血だらけだ。めまいがして、もし助けがなかったらどうなっていただろうと考えた。

アルゴンは3歩前に進んだ。手を伸ばしてソアの空いているほうの手をつかみ、傷の上にしっかりと載せた。そのままの状態で背を反らせ、目を閉じた。

ソアは腕に温かいものが流れるのを感じた。数秒でべとべとしていた血が乾き、痛みが消えていくのがわかった。

彼は見下ろし、信じられなかった。怪我が治っている。残ったのは爪で切られてついた3つの傷痕だけだった。それも傷が閉じていて、数日経過したように見える。血はもう出ない。

ソアはびっくりしてアルゴンを見た。

「どうやったらできるんですか?」彼は尋ねた。

アルゴンは微笑んだ。

「何もしておらん。そなたがしたのじゃ。わしはただそなたの力に指示をしたまでだ。」

「でも僕には治す力などありません。」ソアは当惑して答えた。

「そうかな?」アルゴンは答える。

「僕にはわかりません。起きていることの意味が全くわからないんです。」ソアはますますもどかしく思って言った。「どうか教えてください。」

アルゴンは目をそらした。

「時間をかけて理解していかなければならないこともある。」

ソアは何か思いついた。

「これは、私が王のリージョンに入隊できるということなのでしょうか?」興奮して尋ねた。「サイボルドを倒せるのなら、他の少年に引けを取らないでしょう。」

「確かにそうだろう。」とアルゴンは答えた。

「でも軍の人たちは兄たちを選んで、僕は選ばれませんでした。」

「そなたの兄たちにはこの獣は倒せなかっただろう。」

ソアは考えながら、見返した。

「でも、軍の人たちは僕のことを拒否したんです。どうしたら僕は入隊できるのでしょう?」

「いつから戦士は招待状が必要になったのじゃ?」アルゴンが尋ねた。

この言葉は深く染み込んだ。ソアは体が温かくなってくるのを感じた。

「招かれなくても、行けば良いということですか?」

アルゴンは微笑んだ。

「そなたの運命を切り開くのはそなたじゃ。他の誰でもない。」

ソアが瞬きをするや否や、アルゴンは消えていた。

ソアには信じられなかった。森のすべての方角を見回したが、アルゴンは跡形もなく消えていた。

「ここじゃ。」声が聞こえた。

ソアが振り返ると、巨大な岩が見えた。声はその上の方からすると気づき、すぐにそこへ登った。てっぺんに着いてもアルゴンの姿が見えず、当惑した。

が、この高みからは暗黒の森の木々の上から景色が見渡せた。暗黒の森の端が見え、二番目の太陽が深い緑色の中に沈んでいくのが、そしてその先に王の宮廷へと続く道が見えた。

「そなたはその道を通ることもできる。」声がした。「そうしようと思えば。」

ソアはぐるりと回ってみたが、何も見えなかった。声がこだましているだけだ。だがアルゴンがそこに、どこかにいて、彼をけしかけていることはわかっていた。そして心の底で、アルゴンの言うことが正しいのを感じていた。

もう迷うこともなく、ソアは岩を急いで下り、森を抜けて遠くの道へと進み始めた。自分の運命へと、全速力で。

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