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英雄たちの探求

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Из серии: 魔術師の環 第一巻 #1
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第三章

マッギル国王は恰幅が良く、胸板が厚い。白髪交じりのあごひげが豊かで、広い額には数多く経てきた戦いでしわが刻まれている。王妃とともに城壁の上部に立ち、盛大な日中の祭事を見渡していた。王土は、国王のもとに栄華をきわめ、視野を埋め尽くすほどの広がりを見せている。繁栄する都市は古代からの石の要塞に囲まれていた。国王の宮廷。曲がりくねる迷路のような道でつながれて、様々な形と大きさの石の建造物が建っていた。それらは、戦士、番人、馬、シルバー騎士団、リージョン、衛兵、兵舎、武器庫、兵器工場、そして要塞都市の中に住むことを選んだ大勢の人々のための何百もの住居などである。こうした建物の間には、数エーカーもの草地、国王の庭園、石で縁取られた広場、噴水が広がっていた。宮廷は、国王の父君、そのまた父君によって何世紀にもわたり改良が行われてきた。そして今その栄華の頂点にある。リングの西王国中、最も安全なとりでであることは疑う余地がない。

マッギルは、あらゆる王たちが知る限り最も優秀かつ忠実な戦士に恵まれていた。攻撃をあえてしようという国もいまだかつてなかった。7代目として王位を継承したマッギル国王は、32年間国をうまく治めてきた賢く、良い王であった。彼の世に国は非常に繁栄し、軍隊の規模は2倍に拡大、都市が拡張した。民は豊かになり、国民から不満の声が聞かれることなどなかった。気前の良い王として知られ、彼が王位に就いてからの賜物と平和にあふれた世は、それまでにはなかった。

それは、逆にマッギルが夜眠れない理由でもあった。マッギルは歴史を知っていた。どの時代にも、これほど戦争のない時が長く続いたことはなかった。。もし攻撃を受けたらと考えることはもはやなく、むしろ、いつ受けるかと考えていた。そしてどこからか。

最も脅威に感じていたのは無論、リングの外である。辺境の地、ワイルド(荒地)を統治し、峡谷の向こう側、リングの外の民をすべて従属させた蛮人の帝国からの攻撃である。マッギルとそれ以前の7代の国王にとって、荒地が直接の脅威となったことはなかった。それは完璧な円を描くこの王国独特の地形、リング(環)によるものであった。幅1マイルもの深い峡谷によって外界と遮断され、マッギル1世の時代から活発なエネルギーの盾に守られて、ワイルドを恐れる理由などほとんどなかった。蛮人は何度も攻撃や盾の通過、峡谷の横断を試みたが、一度として成功したことはなかった。リングの内側にいる限り、彼も彼の民も外からの脅威はありえなかった。

が、それは内側からの脅威がないということではない。このところマッギルがまんじりともせずにいるのはそのためであった。それが日中、長女の結婚のための祝祭を行った目的であった。まさに、敵をなだめ、リングの東・西王国間の心もとない平和を維持するためにお膳立てされた結婚であった。

リングは、それぞれの方角に優に500マイルの幅があり、真ん中を山脈で仕切られて分断されている。これが高原である。高原の反対側に東王国があり、リングのもう半分を統治していた。宿敵マクラウド家が数世紀にわたってこの国を治め、マッギル家との不安定な休戦状態を終わらせようと常に画策してきた。マクラウド家は不満を抱えており、自分たちの王国が不毛の側の土地にあると信じ、その持分に満足していなかった。そして少なくとも半分はマッギル家に属するはずの山岳地帯全体の所有権を主張し、高原をめぐって争っていた。国境をめぐる小競り合いは絶え間なく、侵略の恐れも常にあった。

マッギルはそうしたすべてを思案し、悩んでいた。マクラウドは満足するべきである。峡谷に守られてリング内で安全が保証され、選んだ土地に国を構え、恐れるものもない。所有するリングの半分に満足すべきではないか。マッギルが軍隊を非常に強化してきたことが、マクラウドが歴史上初めて侵略を試みない唯一の理由だ。しかし、マッギルは賢い王であったので、地平線の向こう側に何かを感じ取った。この平和が長くは続かないことを知っていた。そのため自分の長女とマクラウド家の長男との結婚を決め、その日がやってきたのだった。

自分の真下には、王国の隅々から、高原の両側から来た、明るい色のチュニックを着た何千人もの召使たちが見えた。この要塞都市に、ほぼリング全体の人間が入って来ている。この国の民は、すべてが繁栄と国力を示すようにとの命を受け、何ヶ月も準備を進めてきた。これは結婚のためだけではない。マクラウドへのメッセージを送る日でもあるのだ。

マッギルは、城壁、街路、都市の外壁に沿って、戦略的に配置された何百人もの兵士の閲兵を行った。兵士の数は必要を上回っていたが、それで満足だった。国力を顕示するのが希望だった。その一方で緊張もしていた。小競り合いが起こる環境が整っている。いずれの側にも、酒にあおられてけんかを始める、短気な者のいないことを願った。騎馬試合場、運動場に目をやり、競技、騎馬試合などのあらゆる祭事が行われるこれからの日々に思いを馳せた。闘いは激しくなるだろう。マクラウドが小規模な軍隊を引き連れてくることは必至で、騎馬試合、レスリング、その他全ての競技が意味を持つだろう。一つでも不首尾に終われば、争いに発展する可能性もある。

「陛下?」

やわらかい手の感触を自分の手に感じ、王妃クレアのほうを向いた。彼が知る限り、最も美しい女性である。王位についてからこのかた幸福な結婚生活を送り、3人の男子を含む5人の子どもに恵まれた。王妃が不平を漏らしたことは一度もなく、王が最も信頼する相談相手にもなっている。年月を経て、王妃が自分の家来の誰よりも賢明であると思うようになった。自分よりも賢いとさえ。

「政治的な日ですわね。」王妃は言った。「でも私たちの娘の婚礼でもあるのですよ。楽しみましょう。二度とない日なのですから。」

「何もなければこれほど心配はしない。」王が答える。「私たちがすべてを手にした今、何もかもが心配の種だ。我々は安全ではあるが、安全だという気がしないのだ。」

王妃は同情をこめて、大きなはしばみ色の目で彼の方を眺めた。二人はこの世の知恵をすべて備えているように見える。王妃はいつも伏目がちで、少し眠たげにも見える。顔の両側を縁取っているのは、美しい、真っ直ぐな茶色の髪で、いくらかグレーも混ざっている。しわが少し増えたものの、昔とちっとも変わらない。

「それは、あなたが安全でないからだと思いますわ。」彼女は言った。「安全な王などいません。この宮廷にはあなたの知る由もないくらい、大勢のスパイがいます。それが世の常でしょう。」

王妃はかがんで彼にキスをし、微笑んだ。

「楽しみましょう。」彼女は言った。「結婚式なのですから。」

そう言って王妃は振り向くと、歩いて城壁から出て行った。

王は彼女が出て行くのを見つめ、それから宮廷の外を見た。彼女は正しかった。いつだってそうだ。彼も楽しみたかった。一番上の娘を可愛がっていたし、何と言っても婚礼である。春の盛り、夏が明けようという、一年のうち最も美しい季節。2つの太陽が空に上がり、そよ風が吹く季節の、最も美しい日なのだ。全ての花が咲き誇り、木々はどれもピンク、紫、オレンジそして白のパレットのようだ。下に下りて家来たちと共に娘の結婚に立会い、これ以上は無理だというくらいエールを飲む。そうしたかった。

それでも彼にはできなかった。城を一歩出る前にしなければならないことがたくさんあった。結局、娘の婚礼の日というのは王としての義務があることを意味する。諮問会の顧問たち、子どもたち、そしてこの日に王との拝謁を許された大勢の嘆願者たちに会わねばならない。日没の儀式に間にあうよう城を出られたら幸運だと言えよう。

*

最も上質な王衣、黒のベルベットのズボンに金のベルト、紫と金の最高の絹でできた王のガウンに身を包み、白のマントを羽織る。すねまでの丈の光沢のある革のブーツを履き、中央に大きなルビーをはめた華麗な金環状の王冠をいただいたマッギル国王は、従者たちに両脇を囲まれて、城内の廊下を堂々と歩いた。欄干から階段へと降り、謁見室を横切って、部屋から部屋へ進み、ステンドグラスが並び、高い天井とアーチを持つ大広間を通過した。最終的に、木の幹のように分厚い古い樫材の扉にたどり着いた。従者が扉を開け、それから脇へ退いた。王座の間である。

王の顧問団はマッギル国王の入室時、直立不動の姿勢で迎えた。扉は王の背後で閉じられた。

「着席。」王は言った。普段よりも唐突である。彼は疲れていた、今日は特に。国を統治するための、果てしなく続く形式的行為。それを片付けてしまいたかった。

王座の間の端から端まで歩いた。この部屋にはいつも感嘆させられる。天井は50フィートの高さで、壁一つは全面ステンドグラスのパネルになっている。石でできた床や壁は厚さ1フットもある。百人の高官が楽に入る。だが今日のような日に諮問会が召集されると、がらんとした部屋に王と一握りの顧問がいるだけだった。部屋で圧倒的に場所を占めているのは半円形の広いテーブルで、その向こう側に顧問団が立っていた。彼は中央に開いた場所を通り、王座へと進んだ。金色のライオンの彫刻を通り過ぎて石段を登り、純金の王座を縁取る紅のベルベットのクッションに沈むように座った。父も、その父も、これまでのマッギル一族はすべてこの王座に座ってきた。ここに腰掛ける時には先祖の重みを感じた。すべての世代の、そして特に自分自身にかかる重みを。

出席している顧問団を見た。優れた将軍であり軍事関連の顧問を務めるブロムがいた。リージョン少年団の将軍コルク、最年長で、学者・歴史家、国王の指導者を3世代にわたって務めてきたアバソル、宮廷で国際関係の相談役を務めるファース、短い白髪頭のやせた男で、引っ込んだ目は決してじっとしていることがない。マッギル国王はこの男を信用したことがない。またこの肩書きの意味も理解していない。だが、国王の父や祖父は宮廷に関する顧問を必ず置いていたため、彼らに敬意を表してこの職を置いた。会計局長官のオーエン、対外関連顧問のブレイディ、収税吏のアーナン、国民に関する顧問のドウェイン、そして貴族代表のケルビン。

絶対的な権限はもちろん国王にある。ただしこの王国は自由な国であり、先祖はいつもすべての事柄において、代理人を通して貴族に発言権を持たせることに誇りを持ってきた。歴史的には、王と貴族の力の均衡は不安定であった。現在は調和を保っているが、他の時代には貴族と王室の間に反乱や権力闘争があった。微妙なバランスだった。マッギルは部屋を見渡し、一人欠けていることに気づいた。最も話をしたいと考えていた人物、アルゴンである。いつもながら、彼がいつ、どこに現れるかは予測できない。マッギルは腹が立ったが、無駄なことだ。受け入れるしかない。ドルイドのやり方は不可解だ。アルゴンが不在のため、マッギルは一層気がせいた。結婚式までにするべきことが山のようにあり、この会議を終わらせてそちらに移りたい。

顧問団は半円形のテーブルを囲み、10フィートずつ離れて、精巧な彫刻を施された古い樫の椅子に王と向かい合って座っていた。

「陛下、始めさせていただきます。」オーエンが呼びかけた。

「そうしてくれ。短く切り上げて欲しい。今日は予定が詰まっているのでな。」 「今日は、お嬢さまがたくさんの贈り物を受け取られることでしょう。王女さまの金庫を埋め尽くすものと願っております。王様に何千人もの民が貢物と贈り物をします。そして娼館と酒場も繁盛し、国庫が満たされることにつながるでしょう。それでも本日の祭事の準備で王室の財源は枯渇しております。私は民と貴族への増税を提案いたします。この祭事の負担を軽減するための、一回きりの課税です。」

マッギルは会計局長官の顔に浮かぶ懸念の色を見た。そして財源の枯渇を思い、気が沈んだ。それでも増税はもうしたくない。

「財政が苦しくとも、忠実な民がいるほうが良い。」マッギルは答えた。「我々の豊かさは民の幸福にある。増税はするべきでない。」

「しかし陛下、もし・・・」

「私はもう決断した。他には?」

オーエンはがっかりして沈み込んだ。

「陛下」ブロムが深みのある声で言った。「ご命令に従い、本日の祭事のため、軍の者を大勢配置しております。圧倒的な兵力を見せつけます。ですが、他が手薄になっておりますので、国内のどこかが攻撃を受けますと、すきが出ます。」

マッギルは考えながらうなずいた。

「敵は、こちらがご馳走を出している間には攻撃しないだろう。」

皆笑った。

「高原からは何か知らせがあるか?」

「何週間も特に動きはありません。婚礼のために兵力を削減したものと思われます。和平の準備ができているのかも知れません。」

マッギルにはよくわからなかった。

「それは、この結婚が功を奏したか、あるいは、攻撃の時を待っているかのどちらかだ。どちらだと思うかね?」と、マッギルはアバソルのほうを向いて尋ねた。アバソルは咳払いをし、がらがら声で言った。「陛下、お父様も、そのお父様もマクラウド一族を決して信用しておられませんでした。横になって寝ているからと言って、これからも起きないということではありません。」

マッギルは、その意見に感謝しながらうなずいた。

「リージョンはどうだ?」王はコルクに向かって尋ねた。

「本日新しい隊員を迎えました。」コルクはすぐにうなずきながら答えた。

「私の息子もその中にいるのだな。」とマッギルが尋ねる。

「誇らしげに入隊されています。すばらしい少年隊員でいらっしゃいます。」

マッギルはうなずき、ブレイディのほうを向いた。

「峡谷の向こうからはどのような知らせがあった?」

「陛下、パトロール隊がここ数週間、峡谷の橋に何度かいたずらされたのを見ております。ワイルドが攻撃にむけて動員している兆候かも知れません。」

ひそひそ声で話すのが聞こえた。マッギルは想像して胃が痛くなった。エネルギーの盾は揺るぎないが、それにしても悪い兆候だ。

「もし大規模な攻撃があったとしてどうなる?」彼は尋ねた。

「盾が活発である限り、何も恐れることはありません。何世紀もの間、ワイルドが峡谷を越えるのに成功したことはないのですから。成功すると考える理由がありません。」

マッギルは確信が持てなかった。外からの攻撃はずっと前にあっったとしてもおかしくない。いつあるやも、と考えずにはいられなかった。

「陛下」とファースが鼻にかかった声で言った。「今日この宮廷がマクラウド王国からの高官たちで溢れていることを考え合わせねばと思います。敵であれ何であれ、彼らを陛下がもてなさなければ侮辱ととられるでしょう。午後の時間を、一人ひとりにご挨拶なさるのに使われることをお勧めいたします。相当な人数の随行団を連れて、祝いの品もたくさん持参しています。スパイも大勢いるとの噂ですが。」

「国内にスパイがこれまでいなかったと誰が言える?」ファースがこちらを見た時、マッギルは彼を注意深く見ながら問い返した。そしていつもと同じく、彼もその一人なのではと考えた。

ファースは答えようと口を開いたが、マッギルはため息をついてもうこれでよい、と手を挙げた。「 議題がそれだけなら、私はもう行くことにする。娘の結婚式に出るのでな。」

「陛下」とケルビンが咳払いをしながら言った。「もちろん、もう一件ございます。最初のお子様の婚礼の日に行う伝統です。マッギル一族は後継者を指名してこられました。皆、陛下がそうされるものと期待していることでしょう。いろいろとうわさしております。皆をがっかりさせるのはお勧めできません。特に、運命の剣がいまだに不動のままとあっては。」

「そなたは、私がまだ王位についている間に後継者を指名しろと言うのか?」マッギルが問いただした。

「陛下、悪意はございません。」ケルビンは口ごもり、不安そうになった。

マッギルは手を挙げた。「伝統は知っておる。それに、今日指名するつもりでおる。」

「どなたかお教えいただけますでしょうか?」とファースが尋ねた。

マッギルは彼を見つめ、当惑した。ファースは噂好きで、マッギルは信用していなかった。

「時が来れば知らせを受けよう。」

マッギルは立ち上がり、皆も立った。彼らは礼をすると振り返り、部屋から急いで出て行った。

マッギルは立ったまま、どれほどの間かわからないくらい長く考えた。このような日には、自分が王でなければよかったと思った。

*

マッギルは王座から降り、静けさの中、長靴の音がこだました。そして部屋を横切った。鉄の取っ手を引いて古い樫の扉を自分で開け、脇の部屋へ入った。

彼は、この居心地のよい部屋で過ごす平和と孤独を、いつもと同様に楽しんだ。壁は、どの方向も隣とは20歩と離れていないが、高い天井にはアーチがある。部屋全体が石造りで、一方向の壁には小さなステンドグラスの丸窓がある。光が黄色や赤の部分から射し込み、がらんとした部屋に一つだけある物を照らしている。

運命の剣。

それはこの部屋の中心、鉄製の突起物の上に、まるで誘惑する女のように水平に置かれている。子どもの頃そうしたように、マッギルは剣に近づき、周囲を回り、観察した。運命の剣。世代から世代へと受け継がれる伝説の剣、王国の力の源。これを持ち上げる力のある者は誰でも選ばれし者となる。命ある限り王国を治め、リングの内外からのすべての脅威から王国を放つ運命を負った者。成長の過程で伝えられてきた美しい伝説。マッギルが国王として聖別された際、この剣を持ち上げようと試みた。マッギル一族の王のみが試すことを許されているからだ。彼の前の代の王たちは皆失敗した。彼は自分だけは違うと確信していた。自分が選ばれし者であると。

だが、彼は間違っていた。それ以前のすべてのマッギル王たち同様。そして彼の失敗はそれ以来王としての汚点となっていた。

今この剣を見つめ、何か誰にも解明できない神秘の金属で造られた長い刃をつぶさに見た。剣の出処は更に謎だった。地震のさなかに大地からそそり立ったと言われている。

剣を観察しているとき、彼はまたもや失敗に終わった痛みを感じていた。良い王ではあるかも知れないが、選ばれし者ではなかった。民はそれを知っている。敵もわかっている。良い王であるかも知れないが、何を成し遂げても選ばれし者にはなれないのだ。もしそうであったなら、宮廷内の不安、謀略はこれほどなかったのでは、と思う。民は彼に更に信を置き、敵は攻撃など考えもしないのでは、と。自分の中のどこかで、いっそのこと剣が伝説とともに消えてしまえばと願っていた。そうはならないことはわかっていた。それが伝説が持つのろいであり、力であった。軍隊さえも及ばない強い力。

何千回目か、今剣を見つめながらマッギルは、いったいそれは誰なのだろうと再び考えずにはいられなかった。一族のうち誰が剣を手にする運命にあるのだろう?目前に迫った後継者の指名について考えながら、もしいるとすれば、誰が剣を持ち上げる運命にあるのだろうと思った。

「刃は重いな。」声が聞こえた。

マッギルは小部屋に誰かいることに驚いて、振り向いた。

扉のところにアルゴンが立っていた。マッギルは、目で見る前から声でそうだとわかっていた。アルゴンがもっと早く来なかったことに苛立ちつつ、今ここに来たことを喜んでもいた。

「遅いぞ。」マッギルは言った。

「陛下の時間の感覚は私とは違いますのでな。」アルゴンが答えた。

マッギルは剣のほうを向いた。

「そなたは、私がこれを持ち上げることができると考えたことはあるか?」考え込むように尋ねた。 「私が王になったあの日に。」

「いいえ。」アルゴンはきっぱりと答えた。

マッギルは振り向き、彼を見つめた。

「私にはできないとわかったいたのだな。見たのか?」

「はい。」

マッギルはこのことを考えた。

「率直に答えるのが怖い。そなたらしくない。」

アルゴンは黙っていた。マッギルはついにアルゴンが何も言わないのだと悟った。

「私は今日後継者を指名する。」マッギルは言った。「この日に指名するのは無益な気がする。子どもの結婚式に王の楽しみを奪うようなものだ。」

「そのような楽しみは抑えるためにあるのかも知れませぬ。」

「だが私にはまだ何年も国を治める期間が残されておる。」マッギルは主張した。

「恐らく、陛下が思っておられるほど長くはないのでは。」アルゴンが答えた。

マッギルは考えながら目を細めてアルゴンを見つめた。それは何かのメッセージなのか?

アルゴンは何も言わなかった。

「6人の子どもたち。誰を選ぶべきか?」マッギルが尋ねた。

「なぜ私にお尋ねになるのですか?もう選んでおられるのでは。」

マッギルは彼を見た。「何もかもお見通しだな。そうだ、もう選んだ。それでも、そなたがどう考えるか知りたい。」

「賢明な選択をなさったと思っております。」アルゴンは言った。「ですが、覚えておいてください。王は墓から治めることはできません。誰を選ぶおつもりかに関わらず、運命は自分で自分を選びます。」

「私は生きながらえるのだろうか、アルゴン?」マッギルは、昨夜恐ろしい悪夢に目覚めたときから知りたいと思っていたことを真剣に尋ねた。

「昨夜私はカラスの夢を見た。」彼は付け加えて言った。「カラスがやってきて私の王冠を盗んで行った。そしてもう一羽が私をさらった。その時私の眼下に広がる王国を見た。私が去るにつれ黒く、不毛な荒地に変わっていった。」

 

彼はアルゴンを見上げた。目が涙で濡れている。

「これはただの夢なのだろうか?それとも他に何か意味があるのだろうか?」

「夢にはいつも何か意味があるのではないでしょうか?」アルゴンが尋ねた。

マッギルは衝撃で気が沈んだ。

「危険はどこにあるのだ?それだけは教えてくれ。」

アルゴンは近寄って、王の目を覗き込んだ。あまりに力強く見つめるため、マッギルは別の王国を見ているような気がしたほどだった。

アルゴンはかがみ込んでささやいた。

「常に、思っているよりも近いところにあります。」

第四章

ソアは、荷馬車の奥の藁に隠れて田舎道を揺られて行った。昨夜なんとか道路にまでたどり着き、気づかれずに乗り込めるような十分な大きさの荷馬車が来るまで辛抱強く待った。既に暗くなっていたため荷馬車はゆっくりと小走りに進んでいて、ソアが走って後ろから飛び乗るのにちょうどよいスピードだった。干草の中に着地して埋もれるように入り込んだ。御者に見つからなかったのが幸いだった。馬車が国王の宮廷まで行くのかソアには定かでなかったが、その方角に進んでいた。この大きさの荷馬車で、こうした印がついているものは、2、3箇所立ち寄る可能性もある。

ソアは一晩中馬車に揺られながら、サイボルドと遭遇したこと、アルゴンとの出会い、自分の運命、今まで過ごした家のこと、母親のことを考え、何時間も起きていた。宇宙が自分に答えてくれ、別の運命があることを教えてくれたような気がした。彼は頭の後ろで手を組んで横たわり、ぼろぼろのテントを通して夜空を見上げた。宇宙をじっと見ると、とても明るく、赤い星たちははるか遠くにある。ソアは元気づけられた。人生で初めて旅に出たのだ。場所はわからなかったが、とにかくどこかへ向かっていた。どちらにしても、国王の宮廷を目指すのだ。

ソアが目を覚ますと、朝になっていた。光が射し込み、知らない間に寝ていたことに気づいた。すぐに起き上がり、周りを見回して、寝てしまったことで自分を責めた。もっと用心していなければいけなかった。見つからなかったのはついていた。

馬車はまだ動いているが、あまり揺れなかった。その意味はただ一つ、道の状態が良いのだ。街が近いに違いない。ソアは見下ろして、道路が滑らかなのを確かめた。石や溝はなく、細かな白い貝で縁取られている。心臓の鼓動が速くなった。宮廷に近づいているのだ。

ソアは荷馬車の後ろを見て圧倒された。整然とした道は動きにあふれていた。様々な形や大きさの何十台もの荷馬車があらゆるものを運び、道路を埋め尽くしていた。毛皮を積んだものもあれば、絨毯を積んでいるものもある。また別の馬車には鶏が載っていた。その間を何百人もの商人が歩いていて、家畜を引き連れていたり、頭に物を入れたかごを載せていたりする。4人の男たちがポールのバランスを取りながら絹の束を運んでいた。大勢の人々が、皆同じ方角に進んでいる。

ソアはわくわくした。一度にこれほど沢山の人や物、そして沢山の出来事が起こっているのを見たのは初めてだ。これまではずっと小さな村にいた。今は中心地にいて、人に囲まれている。

ソアは大きな音を聞いた。鎖のきしむ音、大きな木の塊のバタンという音、あまりに大きな音に地面が揺れた。数秒後にはそれとは違う音がした。馬の蹄が木をカタカタ叩く音だ。彼は見下ろし、橋を渡っていることに気づいた。下では濠が過ぎていく。跳ね橋だ。

ソアが首を出すと、巨大な石の柱が見えた。上には釘状のものがついている鉄の門がある。王宮の門を通過していたのだ。

今まで見たなかで最も大きい門だった。釘状の部分を見上げ、もし落ちてきたら自分は半分に切り裂かれるだろうと思い、驚嘆した。シルバー騎士団の団員4人が入り口を警護しているのを見つけた。胸が高鳴った。

長い石のトンネルを抜けるとすぐに空がまた見えた。宮廷の中に入ったのだ。

ソアには信じられなかった。ここでは更にたくさんのことが行われていた。そんなことが可能なら。数千人とも思える数の人間があらゆる方向に臼を引いていた。広大な草地が完璧に刈られていて、花がどこにでも咲いていた。道は広がって、その脇に売店や露天商、石の建物が見られた。そしてその中に、国王の軍隊がいた。よろいを着けた兵士たちである。ソアは宮廷に着いたのだ。

興奮して、ソアはうっかり立ち上がった。その時馬車は急に止まり、ソアは後ろ向きに転がって、わらの中に背中から着地した。起き上がる前に木が降ろされる音がして見上げると、はげ頭で擦り切れた服の年取った男がこちらをにらんでいた。御者は入って来てソアの足首をごつごつした手でつかみ、引っ張り出した。

ソアは飛ばされて、砂利道にほこりを巻き上げながら背中から落ちた。周りで笑い声が起こった。

「今度俺の馬車に乗ったら豚箱行きだぞ!シルバー騎士団を呼ばなかったのが幸いだと思え!」

老人は向こうを向いて唾を吐き捨て、荷馬車に急いで戻り、馬に鞭を当てた。ソアはひどく恥ずかしい思いをしたが、ゆっくりと落ち着きを取り戻し、立ち上がった。周りを見回すと、通行人が1人2人くすくすと笑っている。ソアは相手が目をそらすまであざ笑って返した。ほこりを払い、腕を拭いた。誇りが傷ついたが、体のほうは大丈夫だった。

辺りを見回して圧倒され、こんなに遠くまでやって来られただけで満足するべきだと考えているうちに元気を取り戻した。荷馬車を降りたので、自由に見て回ることができる。確かにすごい光景だった。宮廷は視界いっぱいに広がっている。中心に壮大な石造りの宮殿が建ち、塔や石のとりでに囲まれ、胸壁がそびえている。その上では国王の軍隊があちこち巡回をしている。 ソアの周りには手入れの行き届いた芝生や、石造りの広場、噴水や潅木があった。都市だ。人であふれている。

様々な人たちがそこここを歩いている。商人、兵士、高官、皆急いでいる。何か特別なことがあるのだとわかるまで何分かかかった。ソアはぶらぶらと歩きながら、椅子を置いたり祭壇をしつらえたり、といった準備が行われているのを見た。婚礼の準備が行われているようだ。

遠くに騎馬試合場と土の道、仕切り用の綱が見えた時、彼の心臓は一瞬止まった。別の競技場では、兵士たちが槍を遠くの的に向かって投げ、また別のところでは射手がわらをねらっているのが見えた。どこでも試合や競技が行われているように見える。音楽もある。リュート、フルート、シンバル。演奏者の集団がうろうろしている。ワインもだ。大きな樽を転がして出してきた。そして食べ物。テーブルが準備され、見渡す限りごちそうが並べられている。まるでソアは盛大な祝い事のさなかに到着したようだ。

目がくらむようなことばかりの中で、ソアはリージョンを急いで見つけなければと思った。既に遅れを取っているのだから、早く自分のことを知らしめなければならない。彼は最初に目に入った年配の男の人に急いで近づいた。血のついた仕事着を着ているところからすると肉屋のようだ。道を急いで行く。ここでは誰もが急いでいる。

「すみません。」ソアは男の人の腕をつかんで言った。

男はソアの手を非難がましく見た。

「何だね、坊や?」

「僕は国王のリージョンを探しているんです。訓練がどこであるかご存じですか?」

「わたしが地図に見えるかい?」男はなじるように言うと、さっさと行ってしまった。

ソアは、男があまりに粗野なのに驚いた。

そして次に見えた、長テーブルで小麦粉をこねている女の人に近づいた。テーブルでは何人もの女の人たちがいて、忙しそうに働いていた。ソアはそのうちの誰かが知っているに違いないと思った。

「すみません。」彼は言った。「国王のリージョンがどこで訓練しているか、ご存じありませんか?」

皆互いに顔を見合わせてくすくす笑った。何人かは自分より2、3歳上なだけだ。

年長の女性がこちらを向いて彼を見た。

「探す場所を間違えてるわよ。」と彼女は言った。「ここじゃみんなお祝いの用意をしているんだから。」

「でも、王様の宮廷で訓練をしているって聞いたんです。」ソアは混乱して言った。女の人たちはまた笑った。年長の人が腰に手を当てて首を振った。

「あんた宮廷に来たのが初めてみたいなことを言うね。どんなに広いか知らないの?」

ソアは他の女の人たちが笑うので赤くなり、そそくさと逃げた。からかわれるのはごめんだ。

目の前に、宮廷を貫くようにすべての方向に向かって曲がりくねった道路が12本もあるのが見えた。少なくとも12箇所の入り口が、石の壁に間隔を置いて造られている。この場所の規模や範囲といったら実に圧倒的だ。何日探しても見つからないんじゃないか、と落ち込んだ。

ある考えが浮かんだ。兵士なら、他の兵士がどこで訓練しているか知っているだろう。実際の国王の兵士に近づくのは緊張するが、そうするしかないと思った。

振り返って、壁の方へ、最寄の入り口で警護をしている兵士のもとへと急いだ。追い返されなければ良いな、と願いつつ。兵士は直立不動で立ち、まっすぐ前を見ていた。

「僕は国王のリージョンを探しています。」ソアはできるだけ勇気のこもった声を振り絞って言った。

兵士は彼を無視してまっすぐ前を見続けている。

「王様のリージョンを探している、と言っているんですが!」ソアは気づいてもらえるように大きな声でしつこく言った。

数秒後、兵士はあざ笑いながらこちらを見下ろした。

「どこにいるか教えてくれませんか?」ソアはせがんだ。

「何の用があるのだ?」

「とても大切な用です。」ソアは兵士が自分を押しのけないようにと願いながら、せきたてるように言った。

兵士はもとの状態に戻って再びソアを無視し、まっすぐ前を見た。彼は、答えてもらえることはないだろうと思ってがっかりした。

しかし、永遠とも思える時間が経った後に兵士が答えた。「東門から出て、北に向かって出来る限り遠くまで行く。左から3番目の門を通って、それから右側の分かれ道を行く。もう一度右側の分かれ道を行って、二番目の石のアーチを通り過ぎる。訓練場は門の向こうだ。言っておくが、時間の無駄だ。よそ者は相手にしないからな。」

ソアが聞かなければならなかったことはすべて聞けた。少しもひるまずに、ソアは振り返って広場を横切って走り出した。行き方を頭の中で反復し、暗記しようとしながら、指示に沿って行った。太陽が高く昇っているのに気づいた。着いたときにもう遅くなければよいが、とそれだけを祈っていた。

*

ソアは、宮廷を通る整然とした貝で縁取られた小道を、くねくね曲がりながら全速力で走っていった。迷わないようにと願いながら、指示通りに行くよう努めた。宮廷のずっと奥まで行き、門が立ち並ぶ中、左から3番目を選んだ。そこを通って走り、分かれ道をたどって、道という道を下って行った。毎分増えていくように思われる、街に入る数千人の人の流れに逆らって走った。リュート奏者や曲芸師、道化師、その他美しく着飾ったあらゆる種類の芸人たちと肩が触れ合った。

ソアは選抜が自分なしで始まるということは考えただけで我慢できず、訓練場への道しるべはないかと探し、道から道へと進むことに全力で集中した。アーチをくぐり抜け、また別の道を曲がり、そして遠くに唯一の目的地を見つけた。石造りの、完璧な円を描いた小規模な競技場だ。中央に巨大な門があり、兵士が警護している。ソアは壁の向こう側から応援する声が小さく聞こえ、胸が高鳴った。ここだ。

ソアは疾走した。肺が張り裂けそうだ。門のところまで来ると、2人の衛兵が前に進み、槍を下げて道を塞いだ。3人目の衛兵が歩み寄って手の平を出した。

「そこで止まりなさい。」衛兵が命令した。

ソアは、興奮を抑えることができず息を切らしながら止まった。

「あなた方は・・・ご存じ・・・ないでしょう。」ソアはあえぎながら言った。呼吸の合間に言葉がこぼれ出る。「中に入らないとならないのです。遅れてしまって。」

「何に遅れたのだ?」

「選抜です。」

背が低く、重そうなあばた顔の衛兵が振り返って他の兵士のほうを見た。皆は皮肉っぽく見返した。彼はこちらを向きソアをさげすんだ目でじろじろと見た。

「新兵は王室の車両で数時間前に入った。招かれていなければ、中には入れない。」

「でも、あなたはご存じないが、僕は入らないと・・・」

衛兵は手を伸ばしてソアのシャツをつかんだ。

「わかっていないのはお前のほうだろう。生意気なやつめ。どうしたらおめおめとここへ来て無理やり入ろうとするなどということができるのだ?手枷をかけられる前にとっとと行け。」

衛兵はソアを押しのけた。ソアは数フィート後ろまでよろめいた。

衛兵の手が触れた胸の辺りが痛んだ。それよりも、拒絶された痛みを感じた。ソアは憤りを感じた。会ってももらえずに衛兵に門前払いを食わされるために、はるばるここまで来た訳ではない。中に入る決意は固かった。

衛兵は他の兵士のほうを向いていた。ソアはゆっくりと離れ、円形の建物を時計回りに進んだ。彼には計画があった。衛兵たちから見えなくなるまで歩くと、壁に沿ってこっそり進みながら突然走り出した。衛兵が見ていないことを確かめてから、スピードを上げて全力で疾走した。建物の半分ぐらいまで来たところで競技場に続く別の入り口を見つけた。はるか上の方、石の壁にアーチ型にくりぬかれた部分があり、鉄の柵で遮られている。その入り口の一つは柵がなかった。また大きな声が湧き起こるのが聞こえ、壁の出っ張りに上って中を見た。

心臓の鼓動が速くなった。広大な円形の訓練場に、兄たちも含めた数十人の新兵が広がっていた。列になって、12人のシルバー騎士団員のほうを向いている。兵士たちがその間を歩き、説明をしている。

新兵の別のグループは、兵士が監視するなか、離れたところで遠くの的に向かって槍を投げている。一人は的をそらした。

ソアの血管は憤りで熱くなった。自分ならあの的を射ることができただろう。彼らと同じようにうまくできるのだ。単に若くて少し小柄だというだけで外されるのは不公平だ。

突然、ソアは背中に手が置かれるのを感じた。かと思うと、ぐいと引っ張られ、宙を飛んだ。下の地面に強く叩きつけられ、息もできなくなった。

見上げると、門のところの衛兵があざ笑いながらこちらを見下ろしている。

「さっき私は何と言った、小僧?」

反応する前に衛兵がかがみ込んでソアを強く蹴りつけた。衛兵がもう一度蹴ろうとした時に、ソアはあばら骨に鋭い衝撃を感じた。

今度はソアが衛兵の足を空中でとらえて引っ張り、バランスを崩させ、転倒させた。

ソアはすぐに立ち上がった。同時に衛兵も立ち上がった。ソアは立って睨み返しながら、自分がしてしまったことに衝撃を受けていた。衛兵が反対側からこちらを睨んでいる。

「手枷をはめるだけでは済まないぞ。」と衛兵は言った。「このつけは払ってもらう。国王の衛兵には誰も手出しをしてはならないのだ!リージョンの入隊はあきらめるんだ。お前は牢屋行きだからな!生きて出てこられたらついていたと思え!」

衛兵は手枷のついた鎖を出した。復讐の念をあらわにしながら、ソアに近づいた。

ソアの心は騒いだ。手枷をはめられる訳にはいかない。だが、国王の衛兵を傷つけたくはない。何か方法を考え出さねば、しかもすぐに。

彼は投石具を思い出した。反射的にそれをつかむと、石を置き、ねらいを定めて飛ばした。

石は空高く飛び、手枷を打ち、驚いている衛兵の手から落とさせた。石は衛兵の指にも当たった。衛兵は痛みに叫び声を上げながら、手を引っ込めて振り、手枷が地面に音を立てて落ちた。

衛兵はソアに殺意に満ちた目を向け、剣を抜いた。特徴のある金属の環とともに。

「最後に過ちを犯したな。」そう脅すと、突進してきた。

ソアには選択肢はなかった。この男は自分を生きて返すつもりはない。投石具にもう一つ石を置き、投げた。慎重に的を絞った。衛兵を殺したくはなかったが、攻撃をやめさせなければならない。心臓や鼻、目、頭をねらう代わりに、相手を殺さずに止められると分かっている場所をソアはねらった。

衛兵の両脚の間だ。

石を飛ばした。あまり強過ぎず、相手を倒すことができるくらいの強さで。

的を完璧に射た。

衛兵は倒れ、剣を落とした。股間を押さえながら地面に倒れ、うずくまった。

「絞首刑になるぞ。」彼は痛みにうめきながら言った。「衛兵!衛兵!」

ソアが見上げると、国王の衛兵が数人、彼の方へ向かって走ってくるのが見えた。

一瞬も無駄にせず、ソアは窓の出っ張りまで走った。競技場に飛び降りなくてはなるまい。そして自分を知らしめるのだ。そして自分の前に立ちはだかる者とは誰とでも戦うつもりだ。

第五章

マッギルは城の上階にある、非公式の会合用の広間に座っていた。私的な用事に使う部屋である。彼は木彫りの自分の席に座り、自分の前に立っている4人の子どもたちに目をやった。長男のケンドリック、25歳の良き戦士で真のジェントルマンである。彼はマッギルに最も良く似ていた。皮肉なことだった。ケンドリックは非嫡子だったからである。マッギルと別の女性との間に生まれた唯一の子どもである。マッギル自身長いこと忘れていた女性である。王妃は最初反対したが、マッギルは彼を自分の本当の子どもたちと一緒に育てた。王位を継承しない、というのが条件だった。ケンドリックが自分の知る限り最も素晴らしい男、父として誇りに思う息子に育った今では、それがマッギルの頭痛の種である。彼よりも良い王国の継承者は出ないだろう。

隣には、対照的な二番目息子がいる。嫡子としては長男であるが。23歳のガレス、やせて頬はこけ、大きな茶色の目は常に落ち着きなく動いている。兄とは、これ以上かけ離れることはないだろうというほど性格が異なる。ガレスの性格はすべてケンドリックならこうではない、というものだった。ケンドリックが率直なら、ガレスは自分の考えを出さないほうであった。兄が気高いのに対し、ガレスは不正直で人を騙すところがあった。マッギルにとって自分の息子を嫌うのは辛いことであったので、性格を直すようずいぶん努力した。しかし、10代のある時期から彼の性格は持って生まれたものとしてあきらめた。狡猾で、権力欲があり、悪い意味で野心があった。また、女性に興味がなく、彼には男性の恋人が大勢いることもマッギルは知っていた。他の王ならそのような息子は追放していたであろう。しかしマッギルは心の広い人であったので、このことは息子を嫌う理由にならなかった。このようなことでは人を判断しなかった。判断材料になったのは彼の悪意やはかりごとをする性格であり、これは見過ごすことができなかった。

ガレスの隣に並んでいるのは、二番目の娘、グウェンドリンである。16歳になったばかりで、マッギルが今までに見たなかで最も美しい少女だ。そしてその性格は外見をしのぐ。親切で、寛大、正直だ。彼が知る若い女性の中で最も素晴らしい娘である。そういう意味ではケンドリックと似ていた。彼女は父を慕う心でマッギルを見、彼はいつもグウェンドリンの忠実さを感じていた。息子たちよりも彼女のことを誇りに思っているくらいだった。

グウェンドリンの脇に立っているのはマッギルの末の息子、リースである。誇り高く、元気の良い少年だ。14歳で大人になり始めたところだ。マッギルは彼がリージョンに入隊したのをとても喜び、どんな大人になるか先が見えるようであった。いつかリースが最高の息子、そして偉大な為政者になることにマッギルは何の疑いも抱いていない。しかしそれは今ではない。彼はまだ若く、学ぶべきことも多い。

マッギルは目の前に立つこの4人の子どもたち、3人の息子と娘1人を見ながら、複雑な気持ちであった。誇り高い気持ちと失望が混ざっていた。また子どもたちのうち2人が欠けていることにも怒りと困惑を感じていた。一番上の娘ルアンダはもちろん自分の結婚式の準備がある。彼女は別の王国に嫁ぐのであるから、後継者を決めるこの話し合いには関係がない。しかしもう一人、真ん中の息子で18歳のゴドフリーがいなかった。マッギルはその冷たい態度に憤りで顔を真っ赤にした。

子どもの頃からゴドフリーは、王というものに対し敬意を表わさなかった。王位に興味がなく、国を治めるつもりがないのは明らかだった。マッギルを失望させたのは、ゴドフリーがごろつきと酒場に入り浸る日々を過ごし、王室の恥と不名誉になっていることだった。怠け者で、ほとんどの日を昼間も寝ているか、または酒を飲んでいるかして過ごしていた。マッギルは彼がこの場にいないことに安堵する一方で、我慢ならない侮辱だとも感じていた。実際、マッギルはこのような事態を予測し、家来たちに早くから酒場をくまなく探し、連れ戻すよう命じていた。マッギルは座ったまま黙って、家来たちが来るのを待った。

重い樫の扉が音を立てて開き、王室の衛兵がゴドフリーを間にはさんで連れて入ってきた。兵士たちがゴドフリーを押して前に進め、後ろで扉を閉めると、彼は部屋によろめきながら入ってきた。

子どもたちはそちらを向いて見つめた。ゴドフリーはだらしなく、エールのにおいをさせていた。ひげも剃らず、服もきちんと着ていない。彼は微笑み返した。不作法なのもいつもと同じだ。

「やあ、父さん。」ゴドフリーは言った。「楽しいことはもう終わったかな?」

「お前は兄弟たちと一緒に立って、私が話すのを待ちなさい。そうしなければ、神にかけて言うが、私が鎖につないで牢屋に入れる。普通の囚人と一緒だ。エールどころか、3日間食事も出ないぞ。」

ゴドフリーはそこに立ち、父親のほうを挑戦的に睨み返した。そのまなざしの中に、マッギルは深い力の源泉、マッギル自身の何か、いつかゴドフリーの役に立つ何か光るものを見出した。彼が自分の性格を克服できれば、だが。

最後まで反抗的な態度でいたが、10秒もするとゴドフリーは結局折れて他の者のところへゆっくり歩いて行った。

全員が揃ったので、マッギルは5人の子どもたちを見た。非嫡子、逸脱した者、大酒飲み、娘、そして末っ子。この変わった取り合わせが、皆自分から生まれたのだとは信じ難かった。そして今、長女の結婚式にこの中から後継者を選ぶ責務が彼にのしかかっていた。どうしてそんなことができよう?

無意味な習慣だった。マッギルは全盛期にあり、あと30年は国を治めることができる。今日誰を後継者に選んだとしても、あと数十年間は王位につくことがない。伝統が彼を苛立たせていた。先祖の時代には有効だったかも知れないが、今の時代には合っていない。

彼は咳払いをした。

「今日私たちは伝統的儀式のために集まった。知ってのとおり、今日私の長女の結婚式にあたり、後継者を指名する仕事が私にはある。この王国を治める継承者だ。もしわたしが死んだら、お前たちの母親よりも統治にふさわしい者はいないが、王国の法律では王の子どものみ継承を許される、とある。そのため、私は選ばなければならない。」

マッギルは考えて、一息ついた。重い沈黙が立ち込め、期待の重さを感じた。皆の目を覗き込み、それぞれが異なるものを表現しているのを見た。非嫡子は自分が選ばれないのを知っていて、もうあきらめているのが見て取れた。逸脱した者の目は、まるで自分が当然選ばれるとでも思っているかのように、野心でギラギラしていた。大酒のみは窓の外を見ていた。どうでもよいのだ。娘は、この話に自分は加わっていないとわかっていて、いずれにせよ父親が好きだという目でこちらを見ていた。末っ子も同じだった。

「ケンドリック、私はいつだってお前のことを本当の息子だと考えてきた。しかし王国の法律で嫡出でない者には王位を授けられない。」

ケンドリックはお辞儀をした。「父上、私は父上が私に王位を授けられるとは思っておりませんでした。自分の立場に満足しております。このことで頭を悩ませたりなどなさらないでください。」

マッギルは、この返事に心が痛んだ。ケンドリックの純粋さを感じ、自分としても彼を一層後継者に指名したくなったためである

「これで候補者は4人となった。リース、お前はとてもよい、最高の若者だ。しかし、この話をするには若すぎる。」

「私もそう思っておりました、父上。」リースは頭を下げながら答えた。

「ゴドフリー、お前は私の3人の嫡子の一人だ。だが、お前は酒場で日々を無駄に過ごし、道徳的に堕落している。生活する上での特権はすべて与えられていながら、それをはねつけている。私が人生で失望していることがあるとすれば、それはお前だ。」

ゴドフリーは居心地悪そうに動きながら、顔をゆがめた。

「じゃあ、これで俺の役目も終わりだな。酒場に戻ったほうがよさそうだな、父上?」

尊敬の念に欠けたお辞儀を素早くしたかと思うと、ゴドフリーは振り返り、部屋を横切って行った。

「戻りなさい!」マッギルが叫んだ。「今すぐにだ!」

ゴドフリーは無視して歩き続けた。部屋を渡り切ると扉を引いた。衛兵が二人そこにいた。

衛兵たちがいぶかしそうに王を見た時、マッギルは怒りで煮えくり返っていた。

だがゴドフリーは待たなかった。衛兵たちを押しのけて前を通り、廊下へ出て行った。

「引き止めなさい!」マッギルは叫んだ。「そして王妃の目につかないようにするのだ。娘の結婚式の日にあの子のことで母親に心配をかけさせたくない。」

「承知しました、陛下。」彼らは言った。扉を閉じ、ゴドフリーの後を急いで追った。

マッギルは座って息をついた。赤い顔をして、落ち着こうとしていた。どうしてあのような子にしてしまったのか、と考えたことは今まで数え切れないほどある。

残った子どもたちを見た。4人がそこに立ち、沈黙したまま待っている。マッギルは集中するため、深呼吸をした。

「残ったのは2人だ。」彼は続けた。「この2人から私は後継者を選んだ。」

マッギルは娘のほうを見た。

「グウェンドリン、お前だ。」

息をのむ音がした。子どもたちは皆ショックを受けたようだった。グウェンドリンは特にそうだった。

「父上、はっきりとおっしゃいましたか?」ガレスが尋ねた。「グウェンドリンとおっしゃったのですか?」

「光栄です、お父様。」グウェンドリンが言った。「でも私は受けられません。私は女です。」

「確かにマッギル家で女が王位についたことはかつてない。だが、私は伝統を変えるべき時であると決めたのだ。グウェンドリン、お前は私が出会った若い娘の中で最も立派な心と精神を持っている。お前は若い、だがうまく行けば、私はまだまだ生き長らえる。時が来れば、お前には国を治めるにふさわしい賢さが身に付いていることだろう。王国はお前のものだ。」

「ですが父上!」ガレスは青白い顔で叫んだ。「私は嫡子の中で年長です!マッギル家の歴史では、必ず年長の息子に王位が継承されてきました!」

「私は王である。」マッギルはきっぱりと言った。「伝統を決めるのは私だ。」

「でもそれは不公平というものです!」ガレスは哀れっぽい声で嘆願した。「妹ではなく、私が王になるべきです。女ではなく!」

「黙りなさい!」マッギルは怒りに震えながら叫んだ。「お前は私の判断に異議があるのか?」

「では私は女性の代わりに除外されるというのですか?私のことをそのようにお考えですか?」

「私はもう決断を下した。」マッギルは言った。「お前はそれに敬意を表し、従いなさい。王国の他の者と同じように。さあ、お前たちはもう下がってよい。」

 

子どもたちは素早くお辞儀をして、部屋から出て行った。

しかしガレスは扉のところで止まり、立ち去れないでいた。

振り向いて、一人で父のほうを向いていた。

マッギルは彼の顔に落胆の色を見た。今日指名されると予測していたのは明らかだ。それだけでなく、指名されたかったのだった。のどから手が出るほど。マッギルにはちっとも驚きではなかった。それが彼に王位を譲らなかった理由そのものだった。

「あなたはどうして私を嫌うのですか、父上?」彼は尋ねた。

「嫌ってなどおらん。ただ王国を治めるのに適していないと思っただけだ。」

「それはなぜですか?」ガレスはせきたてた。

「それは、お前が王位を望んでいたからだ。」

ガレスの顔は真っ赤に染まった。父は明らかに 自分の本質を見抜いていることを言っているのだ。マッギルは息子の目を見つめ、自分に対するあり得ないくらいの憎悪で燃えているのを見た。

それ以上何も言わないうちにガレスは部屋から飛び出て、扉を後ろ手でバタンと閉めた。こだまするその音にマッギルは震えた。息子の眼差しを思い起こし、敵のそれよりも深い憎しみを感じ取った。その瞬間、マッギルはアルゴンのことを、彼が危険が近くにあると言っていたことを思った。これほど身近にあるなどということがあり得るのだろうか?

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