ドラゴンの運命

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Из серии: 魔術師の環 第一巻 #3
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ドラゴンの運命
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ドラゴンの運命

(魔術師の環 第三巻)

モーガン・ライス

モーガン・ライス

モーガン・ライスはいずれもベストセラーとなった、ヤング・アダルトシリーズ「ヴァンパイア・ジャーナル」(1-11巻・続刊)、世紀末後を描いたスリラーシリーズ「サバイバル・トリロジー」(1-2巻・続刊)、叙事詩的ファンタジーシリーズ「魔術師の環」(1-13巻・続刊)の著者です。

モーガンの作品はオーディオブックおよび書籍でお楽しみいただけます。現在、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、日本語、中国語、スウェーデン語、オランダ語、トルコ語、ハンガリー語、チェコ語およびスロバキア語に翻訳され、他の言語版も刊行予定です。

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モーガン・ライス賞賛の声

「魔術師の環には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリー、勇敢な騎士たち、深まっていく人間関係、失恋、いつわりと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジーの読者すべての蔵書としておすすめの一冊。」 - ブックス・アンド・ムービー・レビューズ、ロベルト・マットス

「ライスは設定を単純に描き出す次元を超えた描写で最初から読者をストーリーに引きずり込む・・・とてもよい出来栄えで、一気に読めてしまう。」 - ブラック・ラグーン・レビューズ(「変身」評)

「若い読者にぴったりのストーリー。モーガン・ライスは興味を引くひねりをうまく利かせていて、新鮮でユニーク。シリーズは一人の少女を中心に描かれる・・・それもひどくとっぴな! 読みやすくて、どんどん先に進む・・・PG作品。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「変身」評)

「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」 - パラノーマル・ロマンス・ギルド(「変身」評)

「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」 - vampirebooksite.com (「変身」評)

「プロットが素晴らしく、特に夜でも閉じることができなくなるタイプの本。最後までわからない劇的な結末で、次に何が起こるか知りたくてすぐに続編が買いたくなるはず。」 - ザ・ダラス・エグザミナー(「恋愛」評)

「トワイライトやヴァンパイア・ダイアリーズに匹敵し、最後のページまで読んでしまいたいと思わせる本!アドベンチャー、恋愛、そして吸血鬼にはまっているなら、この本はおあつらえ向きだ!」 - Vampirebooksite.com ( 「変身」評)

「モーガン・ライスは、才能あふれるストーリーテラーであることをまたもや証明してみせた・・・ヴァンパイアやファンタジー・ジャンルの若いファンのほか、あらゆる読者に訴えかける作品。最後までわからない、思いがけない結末にショックを受けるだろう。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「恋愛」評)

モーガン・ライスの本

魔術師の環

英雄たちの探求(第一巻)

王の行進(第二巻)

ドラゴンの運命(第三巻)

名誉の叫び(第四巻)

栄光の誓い(第五巻)

勇者の進撃(第六巻)

剣の儀式(第七巻)

武器の授与(第八巻)

呪文の空(第九巻)

盾の海(第十巻)

鋼鉄の支配(第十一巻)

炎の大地(第十二巻)

女王の君臨(第十三巻)

兄弟の誓い(第十四巻)

生けるものの夢(第十五巻)

騎士の戦い(第十六巻)

天賦の武器(第十七巻)

サバイバル・トリロジー

アリーナ1:スレーブランナー(第一巻)

アリーナ2(第二巻)

ヴァンパイア・ジャーナル

変身(第一巻)

恋愛(第二巻)

背信(第三巻)

運命(第四巻)

欲望(第五巻)

婚約(第六巻)

誓約(第七巻)

発見(第八巻)

復活(第九巻)

渇望(第十巻)

宿命(第十一巻)



Copyright © 2013 by Morgan Rice

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1976年米国著作権法で認められている場合を除き、本書のいかなる部分も、著者の事前の許可を得ることなく複製、配布、配信すること、またはデータベースもしくは情報検索システムに保管することは、その形式、方法のいかんを問わず禁じられています。


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本書はフィクションであり、作中の名称、登場人物、社名、団体名、地名、出来事および事件は著者の想像または創作です。実在の人物・故人とは一切関係ありません。


カバー画像の著作権はBob Orsilloに属し、Shutterstock.comの許可を得て使用しています。

目次


第一章

第二章

第三章

第四章

第五章

第六章

第七章

第八章

第九章

第十章

第十一章

第十二章

第十三章

第十四章

第十五章

第十六章

第十七章

第十八章

第十九章

第ニ十章

第二十一章

第二十二章

第二十三章

第二十四章

第二十五章

第二十六章

第二十七章

第二十八章

第二十九章

第三十章

第三十一章

「竜の逆鱗に触れてはならない。」

—ウィリアム・シェークスピア

リア王

第一章

マクラウド王は数百人の部下を従えて、山中を疾走する馬に必死にしがみついて坂を駆け下り、高原を横切ってリングのマッギル側へと入った。背後に手を伸ばし、高く上げた鞭を引いては馬の皮膚を強く打った。王の馬に催促は必要なかったが、彼はいずれにしても鞭を使いたがった。動物を痛めつけるのを楽しんでいたのだ。

マクラウドは目の前の景色を、よだれが出そうなほどうらやましく思った。牧歌的なマッギルの村。男たちは武器も持たず野に出て、女たちは、夏の陽気に服らしい服もまとわず家で亜麻糸を紡いでいた。家の戸は開け放たれ、鶏は自由に歩き回っている。大鍋が煮え立ち、夕食の用意ができていた。略奪し、女たちを辱める - マクラウドはどんな狼藉を働こうかと考え、ほくそ笑んだ。 流される血の味を味わえそうなほどに。

彼らは走り続け、馬が雷鳴のようなとどろきを響かせて、田園地帯へと広がっていく。やがてそれに気づいた者があった。村の番人である。兵士と呼ぶにはお粗末な十代の少年で、槍を手に立ち、一団が近づいてくる音に振り向いたのだった。マクラウドは、彼が目を白くしているのを見つめ、その顔に恐怖と狼狽の色を見た。この退屈な駐屯地では、少年は恐らく戦など一度も目にしたことがないのだろう。嘆かわしいほど、何の準備もできていなかった。

マクラウドは時間を無駄にしなかった。戦いではいつもそうだが、最初の獲物が必要だった。部下たちはそれを彼に差し出すことをよく心得ていた。

彼は馬が金切声を上げるまでもう一度鞭を当てると、スピードを上げ、他の者を追い越して先頭に走り出た。先祖伝来の重い鉄槍を高々と挙げ、のけぞって槍を放った。

いつもながらその狙いは正しかった。少年が振り向く間もなく、槍は彼の背中に命中して射通し、音を立てて少年を木にくぎ付けにした。血が背中から吹き出し、それだけでマクラウドは満足だった。

マクラウドは短く喜びの声を上げた。その間も、皆はこのマッギルの選りすぐりの土地で、茎が風にたなびいて馬の腿に届き、村の門へと続く黄色いトウモロコシの間を縫って突撃を続けた。美しすぎる日だった。これからもたらそうとしている破壊と比べ、美しすぎるほどの絵。

一団は警護の固められていない村の門を抜けて進んだ。ここは高原に近く、リングの外側に位置するだけあって呑気なものだ。考えればわかるだろうに。マクラウドは軽蔑をこめてそう思いながら斧を振り上げ、この場所を示す木の標識を切り落とした。地名は彼が直に変えさせるだろう。

部下が村に入り、マクラウドの周囲に、この辺鄙な土地の女子供や老人たち、そしてたまたま家に居合わせた者たちの叫び声があふれた。そうしたつきのない者は恐らく数百人はいただろう。マクラウドは彼ら全員を懲らしめるつもりだった。一人の女性に特に目を付け、斧を頭上高く振り上げた。彼に背を向け、安全な家に駆け戻ろうとしていた。あり得ないことだ。

斧が、マクラウドが狙ったとおり女のふくらはぎに当たり、女は叫び声を上げて倒れた。彼は殺そうとは思っていなかった。傷つけたかっただけだ。いずれにせよ、後で楽しむために生かしておきたかった。よく選んだものだ。自然なままの、長いブロンドの髪と細い腰、18にもなっていないだろう。この女は彼のものだ。この娘に飽きたら、殺すのはその時だ。いや、そうしないかも知れない。恐らく奴隷として生かしておくだろう。

彼は嬉しそうに叫びながら女のそばまで寄り、半歩進んだところで馬から飛び降りた。そして女の上に乗り、地面に組み敷いた。砂利の上を女ともども転がり、地面の感触を感じ、生きている実感を味わいながらほくそ笑んだ。

生きる意味がまたできた。

第二章

ケンドリックは嵐の中、武器庫に立っていた。周りには数十名の仲間がいる。皆鍛え上げられたシルバー騎士団のメンバーだ。彼は穏やかな目でダーロックを見た。王の衛兵隊長で、不運な使命を帯びて派遣されたのだ。ダーロックは何を考えていたのだろう?彼は本当に、武器庫にやって来て王族で最も愛されているケンドリックを、武装した仲間たちの目の前で逮捕できるとでも思ったのだろうか? 他の者たちが黙ってそうさせるとでも?

シルバー騎士団が誓うケンドリックへの忠誠を、ダーロックはかなり甘くみていた。彼が正当な告訴事由をもって逮捕しに来たとしても – この場合そうではないが - 自分が連れ去られるのを仲間たちが許すとはケンドリックには思えなかった。彼らは生涯、そして死ぬまで忠誠を誓っているのだ。それがシルバー騎士団の信条だ。他の仲間が脅威にさらされたならば、自分も同じようにしただろう。彼らは生涯、ずっと共に訓練を受け、共に戦ってきたのだ。

ケンドリックは重苦しい沈黙に緊張感を感じ取っていた。騎士たちは、ほんの12名の衛兵たちに向かって引き寄せるように武器を手にしている 。衛兵たちは後ずさりし、この時間を気詰りに感じているようだった。誰かがひとたび剣を抜けば皆殺しになることがわかっていたに違いない。賢明にも、誰もそうしようとはしなかった。皆そこに立ち、指揮官であるダーロックの命令を待った。

ダーロックは緊張した様子で、つばを飲みこんだ。自分の持つ逮捕理由には見込みがないと悟った。

「連れてきた衛兵の数が足りないようだな」ケンドリックは穏やかに言った。「シルバーの騎士100人に12人の衛兵が立ち向かうのでは、負ける理由となってしまう」

青ざめていたダーロックのほおが赤らみ、彼は咳払いをした。

「ケンドリックさま、我々は皆同じ王国に仕えております。あなたと戦いたくはない。おっしゃるとおりです。この戦いに我々が勝つ見込みはない。命令を下していただければ、この場を離れ、王の元へ戻ります」

「ですが、ガレス様が別の、更に多くの者を送り込むだけだということはお分かりだと思います。そしてこれがどのような事態を引き起こすかも。あなた方はそうした者たちを皆殺すでしょう。しかし同じ国の者の血をその手で流すことを本当にお望みでしょうか?内戦を起こしたいとお考えですか?あなたの側にしても、部下の方々の命が危険にさらされ、また誰もかれもを殺すことになります。そんなことが彼らにふさわしいでしょうか?」

ケンドリックはそのことに思いを巡らし、見つめ返した。ダーロックの言うことには一理ある。自分のために部下に傷を負わせたくはない。いかなる殺戮からも彼らを守りたいと思った。それによって自分がどうなろうとも。自分の弟のガレスがいかにひどい人間、統治者であったとしても、ケンドリックは内戦を望んではいなかった—少なくとも自分のせいで起こってほしくなかった。他の方法がある。真っ向から立ち向かうことが最も効果的であるとは限らないことを彼は学んでいた。

ケンドリックは手を伸ばし、友人アトメの剣をゆっくりと下に置いて、他のシルバーの騎士たちのほうに向きなおった。自分を守ろうとしてくれたことへの感謝の気持ちでいっぱいだった。

「我がシルバーの仲間たちよ」彼は言った。「皆の加勢のおかげで謙虚な気持ちになれた。それは決して無駄ではない。皆よくわかってくれていると思うが、私は先代の王である父の死になんら関与していない。こうした事の成り行きから誰かは既に見当がついているが、真犯人を見つけたときには、私がまず最初に復讐する。私は濡れ衣を着せられてはいるが、内戦の引き金は引きたくない。だから、武器は手にとらないでいてほしい。私のことは穏やかに扱ってもらうようにする。リングの者どうしで戦うべきではないからだ。正義が存在するなら、真実はやがて白日の下にさらされる。そして私は皆のもとにすぐに返されるだろう」

シルバーの者たちはゆっくりと、不本意ながら武器を下ろし、ケンドリックはダーロックに向き直った。そして前に進み出て、ダーロックと共にドアに向かって歩き出した。自分を取り囲む王の衛兵の間を、ケンドリックは誇り高く背筋を伸ばして歩いて行った。ダーロックはケンドリックに手錠をかけようともしなかった。それは恐らく敬意または恐怖から、あるいは、ダーロックにはケンドリックが無実であるとわかっていたからかも知れない。ケンドリックは自ら新しい牢獄へと向かうだろうが、そう簡単には折れないだろう。どうにかして汚名をすすぎ、釈放させ、そして父の暗殺者を手打ちにするであろう。それが自分の弟であっても。

第三章

グウェンドリンは弟のゴドフリーと共に城の内部に立ち、ステッフェンが手をねじり、動いているのを見ていた。彼は変わり者だった。奇形で猫背であるというだけでなく、神経質なエネルギーに満ちていた。目は動きを止めることがなく、まるで罪悪感にさいなまれているかのように両手を組んでいた。一方の足からもう片方の足へと移動し、低い声でハミングをしながら同じ場所で揺れていた。長年にわたるここでの孤立した生活が彼を風変わりな者にしたのだ、とグウェンは理解した。

 

グウェンは、自分の父に起きたことを彼がついに明らかにしてくれるのでは、と期待して待っていた。だが、数秒から数分が経ち、ステッフェンの眉に汗がにじみ始め、その動きが激しさを増しても、何も起こらなかった。彼のハミングで時折破られる、ずっしりと重い沈黙が続くだけだった。

夏の日に燃えさかる炉の火を間近にして、グウェン自身も汗ばみ始めた。早くこれを終わらせてしまいたかった。この場所から出て二度と戻りたくなかった。グウェンはステッフェンを細かく観察して彼の表情を解読し、心の内を理解しようとした。彼は二人に何か話すと約束しておきながら、沈黙していた。こうして観察していると、考えなおしているようにも見えた。明らかに、彼は恐れを抱いている。何か隠しているのだ。やがて、ステッフェンが咳払いをした。

目を合わせ、そして床を見ながら「あの夜、何かが落とし樋に落ちてきたのは認めますよ」と話し始めた。「それが何だったかはわからねえ。金属だった。その夜便器を外に運び出して、川に何かが落ちる音を聞いた。何か変わったものでしたよ。ですからね」両手をねじり、咳払いを何度もしながら言った。「それが何であっても、川に流されちまったんでさあ。」

「それは確かか?」ゴドフリーがせっついた。

ステッフェンは勢いよく頷いた。

グウェンとゴドフリーが目を見合わせた。

「それを少しでも見たかい?」ゴドフリーが問いただす。

ステッフェンは首を振った。

「短剣のことを言っていたでしょう。見てもいないのに短剣だとどうしてわかったの?」グウェンが尋ねた。彼が嘘をついていると確信したが、それがなぜかはわからなかった。

ステッフェンは咳払いをして、

「そうじゃないかと思ったから短剣だって申しましたんでさあ」と答えた。「小さい、金属のものでしたからね。他に何がありますかい?」

「便器の底は調べたのか?」ゴドフリーが聞く。「捨てた後に。まだ便器の底にあるかも知れない」

ステッフェンは首を振った。

「底は調べましたさ。いつもそうしますからね。何もありませんでしたよ。空でした。それが何だったとしても、もう流されちまったんですよ。浮いて流れていくのを見ましたから」

「金属なら、どうしたら浮くの?」グウェンが詰問する。

ステッフェンが咳払いをし、肩をすくめた。

「川ってのは謎が多くてね」彼が答える。「流れが強いんですよ」

グウェンは疑いの目をゴドフリーと交わした。ゴドフリーの表情から、彼もステッフェンを信じていないことが見てとれた。

グウェンはますますいらいらしてきた。また途方に暮れてもいた。ほんの少し前までステッフェンは自分たちに約束どおり何もかも話そうとしていた。だが今は、突然気が変わったかのように見える。

グウェンはこの男は何か隠していると感づき、近づいて睨みつけた。一番手強そうな顔をしてみせたが、その時、父の強靭さが自分の中に注ぎ込まれるような気がした。彼の知っていることが何であれ、それを明らかにするのだと心に決めていた。それが父の暗殺者を見つけるのに役立つのであれば尚更だ。

「あなた、嘘をついているわね」鉄のように冷たい声で彼女は言った。そこに込められた力に自分でも驚いた。「王族に偽証したらどんな罰が待っているか知っている?」

ステッフェンは両手をねじり、その場で跳び上がりそうになった。一瞬彼女のほうを見上げたかと思うと、すぐに目をそらした。

「すみません」と彼は言った。「申し訳ない。お願いだ。これ以上何も話すことはないんですよ」

「前に私たちに知っていることを話せば牢屋に入らなくて済むか、って聞いたわね」グウェンが言う。「でも何も話さなかった。何も話すことがないなら、なぜその質問をしたの?」

ステッフェンは唇をなめ、床を見下ろした。

「あた、あたしゃ・・・」彼は言いかけてやめ、咳払いをした。「心配だったんでさあ。落とし樋で物が落ちてきたことを報告しなかったら厄介なことになるんじゃあないかって。それだけですよ。すんませんでした。それが何だったかはわかりません。なくなっちまいましたから」

グウェンは目を細めた。彼をじっと見つめ、この変わり者の本性を見極めようとした。

「あなたの親方には一体何があったの?」見逃すまいとばかりに彼女は聞いた。「行方不明になっているって聞いているけど。そしてあなたが何か関係しているとも」

ステッフェンは何度も首を振った。

「いなくなったんですよ」ステッフェンが答えた。「それしか知りません。すみませんが、お役に立てるようなことは何も知らないんですよ」

突然、部屋の向こう側から大きなシューという音が聞こえ、皆振り返って、汚物が落とし樋に落ちて大きな便器の中に音を立てて着地するのを見た。 ステッフェンは振り向くと部屋を横切って便器まで急いで走って行った。脇に立ち、上の階の部屋からの汚物で満たされているのを見ていた。

グウェンがゴドフリーの方を見ると、彼もこちらを見ていた。同じように途方に暮れた顔付きだった。

「何を隠しているにせよ」グウェンは言った。「それを明かすつもりはなさそうだわ」

「牢屋に入れることもできる。」ゴドフリーが言う。「それでしゃべらせることができるかも知れない」

グウェンは首を振った。

「それはないと思う。この男の場合は。明らかに、ひどく怯えているわ。親方と関係があると思う。何かに悩まされているのは明らかだけど、それが父上の死に関係があるとは思えない。私たちの助けになることを何か知っているようだけど、追いつめたら口を閉ざしてしまう気がする。」

「なら、どうしたら良い?」ゴドフリーが聞いた。

グウェンは止まって考えていた。子供のころ、嘘をついたのが見つかった友達のことを思い出していた。両親が本当のことを言うよう詰め寄ったが、本人は決してそうしなかった。自分から進んですべてを明らかにしたのは、誰もが彼女を一人にしてあげるようになった数週間後のことだった。グウェンは同じエネルギーがステッフェンから出ているのを感じ取っていた。彼を追いつめたら頑なになってしまうこと、自分から出てくるスペースが彼に必要なことも。

「時間をあげましょう」グウェンは言った。「そして他を探すのよ。何を見つけられるかやってみて、もっとわかってから彼のところに戻るの。 彼は口を開くと思うわ。まだ準備ができていないだけ」

グウェンは振り返って部屋の向こう側のステッフェンを見た。 大鍋を埋めていく汚物をチェックしている。グウェンは彼が父の暗殺者へと導いてくれるのを確信していた。それがどのようになるかはわからなかった。彼の心の奥底にどのような秘密が潜んでいるのだろうか、と考えた。

不思議な人だわ、グウェンは思った。本当に変わっていた。

第四章

ソアは、目、鼻、口を覆い、辺り一面に注ぎ込む水をまばたきで払いながら、息をしようとしていた。船に滑り込んだ後、やっとの思いで木の手すりをつかみ、水が容赦なく握りしめる手を引き離そうとするのに抗い、必死にしがみついていた。体中の筋肉が震え、あとどれくらい持ちこたえられるかわからなかった。

周囲では仲間たちも同じように、ありったけのものにしがみついていた。水が船から叩き落とそうとするなか、なんとか踏みとどまっていた。

耳をつんざくような大きな音がし、数フィート先もよく見えなかった。夏の日だというのに雨は冷たく、ソアの体は冷え切って水を振り落すこともできなかった。コルクが立ちはだかり、まるで雨の壁も通さないかのように腰に手を当て、にらみつけながら自分の周囲に向かって吠えている。

「座席に戻れ!」コルクが叫んだ。「漕ぐんだ!」

コルク自身も席に着き漕ぎ始めた。間もなく少年たちがデッキ中を滑ったり、這ったりしながら、席に向かった。ソアが手を離してデッキを横切っていく時、心臓が激しく打った。ソアは滑っては転び、デッキに強く叩きつけられた。シャツの中でクローンが哀れな声を上げていた。

後はなんとか這ってすぐに席にたどり着いた。

「しっかりと結び付けておけ!」コルクが叫ぶ。

ソアが見下ろすと、結び目のついたロープがベンチの下にあった。何のためにあるものかやっとわかった。手を伸ばして手首の周りに結び、席とオールに自分を固定させた。

これが役に立った。もう滑らない。すぐに漕げるようになった。

周りでも少年たちが皆漕ぎ始めた。リースはソアの前の席だった。船が進んでいる感覚があり、数分もすると、雨の壁が前方で明るくなった。

漕げば漕ぐほど、このおかしな雨のせいで皮膚が焼けるようで、体中の筋肉が痛む。やっと雨の音が静まり始め、頭に降り注ぐ雨の量が減ったのが感じられた。その後すぐに、太陽が照る場所に出た。

ソアは辺りを見回し、ショックを受けた。すっかり晴れ上がって、明るい。これほどおかしなことは経験したことがない。船の半分は晴れて太陽が輝く空の下にあり、もう半分は雨の壁を通過し終えようというところで雨が激しく降り注いでいる。

やがて船全体が澄みわたった青と黄色の空の下に入り、あたたかな太陽の光が皆の上に注いだ。雨の壁があっという間に消えて静けさが訪れ、仲間たちは驚きに互いの顔を見合わせていた。まるでカーテンを通り過ぎて別世界に入ったかのようだった。

「休め!」コルクが叫んだ。

ソアの周りの少年たちが皆一斉にうめき声を上げ、あえぎながら休んだ。ソアも体中の筋肉の震えを感じながら同じようにし、休憩に感謝した。船が新たな海域に入ったのに合わせ、倒れこんであえぎ、痛む筋肉を休めようとした。

ソアはようやく回復し、辺りを見回した。水面を見ると、色が変わっているのに気付いた。今は淡く輝く赤色になっている。違う海域に入ったのだ。

「ドラゴンの海だ」隣にいたリースも驚いて見下ろしながら言った。 「犠牲者の血で赤く染まったって言われてるんだ」

ソアはその色を見つめた。ところどころ泡が立っている。離れたところで奇妙な獣が瞬間的に顔を出してはまた潜っていく。どれもあまり長い間水面にとどまらないため、よく見ることができない。だが、運にまかせて、もっと近くまで乗り出して見たいとも思わなかった。

ソアはすべてを理解し、混乱していた。雨の壁のこちら側は何もかもが異質だ。大気にはわずかに赤い霧まであり、水面上を低く覆っている。水平線を見ると、数十もの小さな島々が飛び石のように広がっている。

風がいくらか強くなってきた。コルクが進みでて叫ぶ。

「帆を揚げよ!」

ソアは周りの少年たちと共に迅速に動いた。ロープをつかみ、風をつかまえられるように引き上げる。帆が風を孕んだ。ソアは自分たちの下で船が今までにないスピードで前進していくのを感じ、一行は島を目指した。船が大きくうねる波に揺さぶられ、唐突に押し上げられては、静かに上下した。

ソアはへさきに向かって行き、手すりに寄りかかって遠くを見渡した。リースが隣にやって来て、オコナーも反対側に立った。ソアは二人と並んで立ち、島々がどんどん近づいてくるのを見ていた。長いこと黙ったままそうしていた。ソアは湿ったそよ風を満喫しながら体を休めた。

やがて、自分たちがある島を特に目指していることにソアは気づいた。どんどん大きく見えてくる。そこが目的地であることがわかるにつれ、ソアは寒気を覚えた。

「ミスト島、霧の島だ」リースが畏れを持ってそう言った。

ソアは目を見張り、じっくり観察した。その形に焦点が合ってくる。岩が多くごつごつした不毛の土地だ。それぞれの方角に長く細く何マイルも広がって、馬蹄型をしている。岸では大波が砕け、ここからでもその音が聞こえる。そして大岩にぶつかっては巨大な泡状のしぶきを上げていた。大岩の向こうには小さな一握りの土地があり、崖がまっすぐ空に向かってそびえ立っていた。ソアには船が安全に着岸できるかどうかわからなかった。

この場所の奇怪さに加え、赤い霧が島全体に立ち込めて、露が太陽にきらめき、不気味な雰囲気を醸し出していた。ソアはこの場所に非人間的な、この世のものではない何かを感じ取っていた。

「ここは数百万年も前から存在していたらしい。」オコナーが付け加えて言う。「リングより古い。王国よりも古いんだ」

「ドラゴンの地だ」リースの隣にやって来たエルデンが言う。

ソアが見ている間に、突然二番目の太陽が沈んだ。あっという間に太陽が輝く昼間から日暮れ時へと変わり、空は赤紫色に染まった。信じられなかった。これほど太陽が素早い動きを見せるのを見たことがない。この地で、他にも他と異なるものは一体何なのだろうと思った。

「この島にドラゴンが棲んでいるのかい?」ソアが尋ねた。

エルデンが首を振る。

「いや、近くに棲んでいるとは聞いている。赤い霧がドラゴンの息から作られると言われている。隣の島でドラゴンが夜に息をし、それが風で運ばれて日中島を覆うらしい」

ソアは突然物音を聞いた。それは始めは雷のような低いとどろきに聞こえた。長く、大きい音で船が揺れた。シャツの中に居たクローンが頭を引っ込め、哀れっぽい声を出した。

他の者たちは皆くるりと向きを変えた。ソアも振り返り、見渡した。水平線上のどこかに炎の輪郭がかすかに見えるような気がした。沈む太陽を舐めるような炎がやがて黒煙を残して消えた。まるで小さな火山が噴火したかのようだった。

「ドラゴンだ」リースが言った。「僕たちは今、奴の縄張りに入ったんだ」

ソアは息を呑み、考えた。

「どうして僕たちは安全でいられるんだ?」オコナーが聞いた

「どこにいても安全ではない」声が響き渡った。

ソアが振り返ると、コルクがそこに立っていた。腰に手を当て、皆の肩越しに水平線を見ている。

「あそこが百日間の場所だ。死の危険と日々を共にする。これは訓練ではない。ドラゴンがすぐ近くに生息し、その攻撃を止めることはできない。自分の島にある宝を守っているために攻撃をしかける可能性は低い。ドラゴンは自分の宝を置いたまま離れることを好まない。しかし君たちはその遠吠えを聞き、夜間にはその炎を目にするだろう。そして、どうかしてドラゴンの怒りを買うことがあれば、何が起こるかわからない」

ソアは再び低い鳴動を聞き、水平線上の炎が噴き出すのを見た。島に近づいていく間、波がそこで砕けるのを見つめていた。険しい崖、岩の壁を見上げ、どうやっててっぺんの平地にたどり着くのだろうかと考えた。

「船が着岸する場所が見当たりません。」ソアが言った。

「それは簡単なことだ」コルクがすぐに言い返す。

「ではどうやって島に上陸するのですか?」オコナーが尋ねる。

コルクが微笑んで見下ろした。不吉な笑みである。

「泳げば良いのだ」コルクが言った。

一瞬、ソアはコルクがふざけているのかと思った。だが彼の顔の表情からそうではないと悟った。ソアは息を呑んだ。

「泳ぐ?」リースが信じられない様子で繰り返した。

「あの海域には生き物がうようよしているじゃないか!」エルデンが叫ぶ。

「あんなのは可愛いものだ」コルクが続けて言う。「ここの流れは油断できないぞ。渦には飲み込まれる。波にはギザギザの岩に叩きつけられる。水は熱く、岩をやり過ごせても、陸にたどり着くためあの崖を登る方法を見つけねばならん。それも海の生き物がまず君らを捕まえなければだが。さあ、新しい住処へようこそ」

ソアは手すりの端で、眼下の泡立つ海を見下ろしながら皆と立ちすくんだ。そこでは水が生き物のように渦巻き、流れが一秒ごとに強くなっていく。船を揺らし、バランスを保つのがますます難しくなってきている。足下で波が狂ったように泡立ち、明るい赤色は地獄の血そのものを含んでいるかのようだ。最悪なのは、ソアが見たところでは、別の海の怪物が数フィートごとに顔を出していることだ。水面に上がってきては長い歯で噛みつくようにしてはまた潜っていく。

岸から遠く離れているのに、船が突然碇を降ろした。ソアは息を呑んだ。島を縁どる大岩を見上げた。自分たちが、ここからあそこまでどうやってたどり着いたものかと考えた。波の砕ける音は毎秒大きくなっていき、話す時は相手に聞こえるよう大声を出さなければならない。

見る見るうちに、幾つものボートが海に降ろされ、その後、船から30ヤードは優にあるだろう、遠く離れた場所へ指揮官たちにより動かされた。これは簡単じゃない。そこに行くまで泳いでいかなくてはならない。

そう思っただけでソアは胃が締め付けられた。

「跳べ!」コルクが大声で号令をかける。

初めて、ソアは恐怖を感じた。それはリージョンのメンバーや戦士としてふさわしくないことなのでは、と思った。戦士はいついかなる時も恐れてはならないとわかっていたが、今恐怖を感じていることは認めざるを得なかった。それが嫌で、そうでないことを願ったが、事実だった。

だが、周りを見て他の少年たちの恐怖におののく顔が目に入ると、ソアは少し気が楽になった。皆が手すりの近くで海面を見つめ、恐怖に立ち尽くしている。一人の少年は特に恐怖のあまり震えていた。盾を使った訓練の日に、恐れから競技場を走らされたあの少年だ。

コルクはそれに気付いたに違いない。船上を横切って少年のほうへやって来た。風で髪が吹き上げられても気にする様子もない。しかめっ面で、自然をも征服するかのような勢いだ。

「跳ぶんだ!」コルクは叫んだ。

「いやだ!」少年が答えた。「できません!絶対にするものか!泳げないんです!家に帰してください!」

コルクは少年のほうに向かって真っすぐ歩いて行き、少年が手すりから離れようとした時、シャツの背中をつかみ、床から高く持ち上げた。

「ならば泳ぎを覚えるがよい!」コルクはそう怒鳴ると、船の端から少年を放った。ソアには信じられなかった。

少年は叫びながら宙を飛んで行き、15フィートは先の泡立つ海に落ちた。しぶきを上げて着水し、水面に浮かんだ。ばたばたと体を動かし、息つぎをしようと喘いでいる。

「助けて!」少年は叫んだ。

「リージョンの最初の規則は?」コルクは水面の少年には目もくれず、船上の他の少年たちのほうを向き大声で聞いた。

ソアには正しい答えがおぼろげにわかっていたが、下で溺れかけている少年のほうに気が行ってしまい、答えられない。

「助けが必要なリージョンのメンバーを救うこと!」エルデンが叫ぶように言った。

「彼には助けが必要か?」コルクが少年を指さしながら聞く。

少年は腕を上げ、水面で浮いたり沈んだりしている。他の少年たちはデッキに立ち、恐怖で飛び込めないまま見つめている。

その瞬間、ソアに予想外のことが起きた。溺れかけている少年に注意を向けているうち、他のことがすべてどうでもよくなってしまった。 ソアはもはや自分のことなど考えていなかった。自分が死ぬかもしれないということは考えもしなかった。海、怪物、海流・・・それらすべてが消えていった。今考えられるのは人を救うことだけだ。

ソアは幅広の樫の手すりに登って膝を曲げると、考える間もなく宙高く跳び上がり、足下の泡立つ海に頭から飛び込んだ。

第五章

ガレスは大広間の父の王座に座り、滑らかな木製の肘掛に沿って手をさすりながら目の前の光景を見ていた。数千人もの臣民が室内を埋め尽くしていた。一生に一度しかない行事、ガレスが運命の剣を振りかざすことができるかどうか、選ばれし者かどうかを見とどけに、リング内のあらゆる場所から人が集まったのだ。国民は、父君の若かりし頃以来剣を持ち上げる儀式を見る機会がなかったため、誰もこのチャンスを逃したくなかった。興奮が巷に渦巻いていた。

ガレスは期待しながらもぼう然としていた。人がますます溢れ、室内が膨れ上がるのを見るにつけ、父の顧問団が正しかったのではないか、と思い始めた。剣の儀式を大広間で行い、一般に公開するのはあまりよい考えではなかったのではないかと。彼らは非公開の小さな剣の間で行うよう求めた。失敗した場合、それを目撃する者がわずかしかいないという理由だった。だがガレスは父の家来を信用しなかった。父の古い側近よりも自分の運命に信を置いていた。そしてもし成功した場合、自分の手柄を、自分が選ばれし者であることを王国中の者に見てほしかった。その瞬間をその場で記録にとどめたかったのだ。彼の運命が決まる瞬間を。

ガレスは優雅な物腰で広間に入場した。王冠と王衣を身に着け、笏を振りながら

、顧問たちに付き添われて進んだ。彼は、父でなく自分が真の王であること、真のマッギルであることを皆に知らしめたかった。予想どおり、ここが自分の城で、人々が自分の臣民であるとガレスが実感するまでにそれほどかからなかった。彼は皆にもそう実感してもらい、権力を示すのを多くの者に見てもらいたかった。今日から皆ははっきりと、自分が唯一の、本物の王であると知ることになるだろう。

だが、ガレスは今この王座に一人座り、部屋の中央にある、剣を置く鉄の突起が天井から差す陽光に照らされるのを見ながら、それほど確信が持てなくなっていた。自分がしようとしていることの重みが彼にのしかかっていた。もう後戻りのできない段階だ。もし失敗したら?ガレスはその考えを頭から払いのけようとした。

広間の向こう側の大きい扉が、きしむ音を立てながら開いた。興奮気味の「しーっ!」という声とともに、広間は期待に満ちた静寂に包まれた。12名の宮廷で最も屈強な者たちが、間に剣を掲げながら入場した。その重さに苦労している。片側6名ずつの男たちが、剣の安置場所まで一歩ずつ行進していく。

剣が近づくにつれ、ガレスの心臓は鼓動が早くなった。一瞬、自信が揺らいだ。今まで見たことがないほど大柄の、この12名の男たちに持ち上げることができないのなら、自分にできる見込みなどあるのだろうか?だが、ガレスはそのことは考えないようにした。剣は運命に関係しているのであって、権力ではないのだ。そして、ここにいること、マッギル家の第一子であること、王であることが自分の運命なのだと自分にいい聞かせた。会衆の中にアルゴンの姿を探した。どういうわけか、急に彼の助言を無性に仰ぎたくなった。その助けが最も必要な時だった。なぜか、他の者は思い浮かばなかった。だが、アルゴンの姿はなかった。

やがて12名の男たちは広間の中央まで進み、太陽の光が差し込む場所に剣を運んで、鉄製の突起状の台に安置した。金属の音が響き、室内にこだまするなか剣が置かれ、静寂が広がった。

会衆は自然と分かれて、ガレスが剣を持ち上げるために進めるよう道を開けた。

ガレスは王座からゆっくりと立ち上がり、この瞬間と、自分が集めている注目とを味わった。全員の目が自分に注がれているのを感じた。王国の誰もが完全に、これほどの注意を向けて自分を見つめ、自分の動きのすべてを見ようとする、このような時は二度とやって来ないだろうとわかっていた。子供の頃から、この瞬間を心の中で何度も思い描き、そして今その時がやってきた。ゆっくりと時が流れて欲しいと思った。

王座の階段を一段ずつゆっくり味わいながら下った。足下の真紅の絨毯を、その柔らかさを感じながら、一筋の太陽の光に、剣に近づいて行った。それは夢の中を歩いているようだった。自分が自分でないような気がした。自分の中に、以前夢の中でこの絨毯を何度も歩き、剣を何百万回も持ち上げたことのある自分があった。それが一層、自分が剣を持ち上げるよう運命づけられていると、運命に向かって歩いているのだと感じさせた。

どう事が運ぶか、ガレスは頭の中で思い描いた。堂々と進み出て片手を伸ばし、臣民が乗りだして見守る中、素早く劇的に剣を振り上げ、頭上にかざして見せる。皆、息を呑み、ひれ伏して彼を選ばれし者であると宣言する。歴代のマッギルの王のうち最も重要で、永遠に支配することを運命づけられた者として。その光景に皆が歓喜の涙を流すのだ。そして彼を畏れ、服従する。これを見るために生きてきたことを神に感謝し、彼こそ神であるとあがめる。

ガレスは剣にあと数フィートというところまで近づき、体の中で震えを感じていた。太陽の光の中に入ると、何度も目にしたことのある剣でありながら、その美しさにはっとさせられた。これほど近づくことは許されなかったため、驚きを禁じ得なかった。強烈だった。誰にも判別できない素材で造られた、長い輝く刃の剣は、ガレスもこれ以上華麗なものを見たことがないほどの柄を持っていた。 美しい、絹のような布に包まれて、あらゆる種類の宝石が散りばめられ、端にはハヤブサの紋章を施してある。歩み寄ってかがみ込むと、強力なエネルギーが発散されているのを感じた。鼓動しているようにさえ見えて、ガレスは息もできないほどだった。間もなく、それを手にして頭上高くに掲げることになる。太陽の光の中、誰からも見えるように。

大いなる者、ガレスとして。

彼は手を伸ばし、その柄に右手を置いた。そして宝石の一つ一つを、輪郭を感じ取りながら、ゆっくりと指を添わせ、握った。痺れる感覚を覚えた。強烈なエネルギーが手のひらから腕、そして全身へと広がった。経験したことのない感覚だった。これこそガレスのためにある瞬間、人生最高の時だ。

ガレスは一か八かやってみるというようなことはしなかった。もう片方の手も下ろし、柄にかけた。目を閉じ、浅く息をした。

神の意にかなうなら、どうかこの剣を振り上げさせてください。私に王であるしるしをお与えください。私が統治する者として運命づけられていることをお示しください。

ガレスは沈黙したまま祈った。祈りへの応え、しるし、完璧な瞬間を待った。だが数秒が、10秒がまるまる過ぎ、王国全体が見守るなか、何も起きることがなかった。

そして突然、父のこちらを睨み返している顔が見えた。

ガレスは恐怖に目を見開き、頭からその像を消し去りたかった。心臓が高鳴り、恐ろしい前兆のような気がした。

今しかない。

ガレスは前にかがみ込み、全力で剣を振り上げようとした。全身が震え、けいれんするまで力を振り絞った。

剣はびくともしなかった。まるで地球の土台を動かそうとしているかのようだった。

ガレスはまだ懸命に試みていた。はたから見てわかるぐらいにうめき声を上げ、叫んだ。

やがて彼は倒れた。

刃は1インチとて動かなかった。

ガレスが床に崩れ落ちた時、ショックに息を呑む音が室内に広がった。顧問が数名助けに駆け寄り、様子をうかがった。ガレスは乱暴を彼らを押しのけた。気まずい思いで彼は立ち上がった。

自尊心を傷つけられ、ガレスは臣民が今自分のことをどう見ているかを確かめようと見渡した。

彼らは既にガレスに背を向け、部屋から退出しようとしていた。その顔に落胆を、自分が彼らの目には失敗としか映っていないことを見てとった。今では全員が、自分が彼らの真の王ではないことを知っている。運命の、選ばれしマッギルではないと。彼は何物でもない、王座を奪ったまた別の王子でしかないと。

ガレスは恥で全身がほてるのを感じた。これほど孤独を感じたことはなかった。子供の頃から夢見てきたことのすべてが嘘で、妄想だったのだ。自分のおとぎ話を信じてきただけだった。

 

そのことが彼を打ちのめした。

第六章

ガレスは自室の中で歩きながら、剣を持ち上げる儀式の失敗にぼう然として頭が混乱し、その影響について整理しようとしていた。ショックで麻痺したようになっていた。マッギル家の者が七世代にもわたって誰も振り上げられなかった運命の剣。それを試そうとした自分の愚かさが信じられなかった。なぜ、自分が先祖たちよりも優れているだろうと考えたのだろうか?なぜ自分だけは違うと?

もっとよくわかっておくべきだった。慎重になり、自分を過大評価するべきではなかった。父の王座を受け継いだことに満足していればよかった。なぜそれをもっと無理に進めようとしたのだろうか?

臣民はもはや自分が選ばれし者でないことを知っている。そのことで彼の支配に傷がつくうえ、恐らく父の死に関して自分に疑いを持つ根拠が増えただろう。皆が自分のことを違う目で見始めていることに気付いていた。まるで自分が生霊で、彼らが次の王を迎える準備をしているかのように。

更にひどいのは、生まれて初めて自分に自信が持てなくなったことだった。今まで、自分の運命をはっきりと見据えてきた。父の後を継ぐ運命にあると確信してきたのだ。統治し、剣を振りかざすものだと。その自信が根底から揺らいだ。今は何も確信できなかった。

そして最悪なことに、剣を持ち上げようとした瞬間に見た父の顔がずっと目に浮かぶのだった。これは父の復讐なのだろうか?

「お見事ね」低く、皮肉な響きを持った声がした。

ガレスは、部屋に誰かいたのかと衝撃を受けて振り向いた。その声で誰かすぐにわかった。長年聞き慣れ、自分がさげすんできた妻の声。

ヘレナだ。

部屋の向こうの隅に立ち、アヘンのパイプを吸いながら自分を観察していた。深く息を吸って止め、ゆっくりと吐き出した。目は充血し、長時間吸い過ぎていることがわかった。

「ここで何をしている?」ガレスが尋ねた。

「ここは私の花嫁時代の部屋よ」彼女が答えた。「ここでは好きなことができるわ。私はあなたの妻でもあり、女王なんですから。忘れないでちょうだい。あなたと同じく私もこの国を支配しているのよ。そして今日あなたが失敗した以上、統治という言葉はあまり厳密には使わないようにするわ」

ガレスは顔が赤くなった。ヘレナはいつでも最も人をさげすむやり方で打ちのめしてくる。しかも一番不都合な時に。ガレスは彼女をどの女よりも軽蔑していた。結婚しようと決めたことが信じられなかった。

「そうなのか?」ガレスは振り向いてヘレナのほうへ向かって行きながら、怒りではらわたが煮えくり返る思いで言った。「お前は私が王であることを忘れている。妻であろうがなかろうが、他の者と同じようにお前を投獄することだってできるのだぞ」

ヘレナは軽蔑したように彼を鼻で笑い、

「それから?」と鋭く言った。「国民にあなたの性的嗜好を疑わせる?策略を練るガレスなら、そうはさせないでしょうね。人が自分のことをどう見るか誰よりも気にする人だもの」

ガレスはヘレナを前にして口をつぐんだ。自分を見透かす方法を心得ているとわかり、心からうとましく思った。彼女の脅しを理解して議論しても良いことはないと悟り、ただこぶしを握り締めて静かに立ち尽くすだけだった。.

「何が望みだ?」ガレスはあわてないように、と自分を制しながらゆっくりと聞いた。「私から何か引き出そうというのでない限りここへは来ないだろう」

ヘレナは乾いた嘲笑を浮かべた。

「私は欲しいものは何でも自分で手に入れるわ。あなたに何か要求しようと思って来たんじゃなくて、言おうと思ったことがあって来たの。剣を振り上げるのに失敗したのを皆が見たでしょう。それで私たちはどうなったかしら?」

「私たち、っていうのはどういう意味だ?」ガレスがヘレナの思惑をいぶかりながら聞いた。

「私がずっと前から知っていたことが、今や国民にもわかったということよ。つまりあなたが選ばれし者なんかじゃなくて、落伍者だってこと。おめでとう。今じゃ正式に知られたわけね」

ガレスが睨み返した。

「父も剣を振りそこなった。それで王として国を立派に治めることができなかったわけじゃない」

「でも王としての威厳には影響があったわ」ヘレナがピシャリと言う。「どんな時にもね」

「私の能力のなさに不満があるなら」ガレスが憤って言う。「ここからいなくなったらどうだ?私など置いて行きたまえ!結婚のまねごとなどやめればよいのだ。私は今や王だ。お前は必要ない」

「そのことを話題にしてくれてよかった」ヘレナが言った。「それがここに来た理由だから。結婚を終わらせて、正式に離婚したいの。好きな人がいるのよ。本物の男性よ。あなたの騎士の一人、戦士で、私が経験したことがないほど、私たちは本気で愛し合っているのよ。この関係を秘密にしておくのはもうやめにして、公にしたいの。そして彼と結婚したいので、離婚してください」

ガレスは衝撃を受けて彼女のほうを見た。胸に短剣を刺されたばかりのように、心に穴を開けられたような気がした。なぜヘレナは公にしなければならないのか?よりによって、なぜ今なのか? もうたくさんだった。自分が弱っているときに、よってたかって蹴られているかのようだった。

それにもかかわらず、ガレスは自分がヘレナに対して深い思いを抱いていたと気づき自分でも驚いた。彼女が離婚を迫ったとき、衝撃を受けたからである。ガレスは気が動転した。意外なことに、自分が離婚を望んでいないことに気付いた。自分から求めたのであれば、それはよかった。だが、ヘレナから切り出された場合は別問題だ。そう簡単に彼女の好きにさせたくはなかった。

まず第一に、離婚が王としての威厳にどう影響するかと考えた。国王が離婚したとなると多くの疑問が生じる。また、自分の意思に反してその騎士に嫉妬を覚えた。自分に面と向かって男性らしさの欠如を持ち出したのも憎らしかった。二人に仕返しをしたかった。

「そうはさせない」ガレスは切り返した。「お前は永遠に私の妻として縛られているのだ。決して自由にはさせない。そしてお前が通じていた騎士にもし出会ったなら、拷問にかけて処刑する」

ヘレナが怒鳴るように言った。

「私はあなたの妻なんかじゃないわ!あなたも私の夫などではない。あなたは男じゃないんですもの。私たちの結婚は初日からひどいものだった。権力のための政略結婚だったのよ。何もかも反吐が出るようなことだった。いつでもね。真の結婚をする私の唯一のチャンスが台無しになったのよ」

怒りが沸騰したヘレナが一息ついた。

「離婚してくれなければ、あなたの正体を王国中にばらすわ。どうするかはあなたが決めて」

そう言うとヘレナはガレスに背を向け、部屋を横切り、開いた扉から出て行った。扉を閉めようともしなかった。

ガレスは石造りの部屋に一人たたずみ、ヘレナの足音がこだまするのを聞いていた。ふるい落とすことのできない寒気を感じていた。すがれる確かなものはもう何もないのだろうか?

ガレスは開いたままの扉のほうに目をやり、震えながら立ちすくんでいたが、誰か別の者が入って来るのを見て驚いた。 ヘレナとの会話を、脅しを整理する間もなく、ファースの見慣れた顔が入って来た。申し訳なさそうな表情でためらいがちに部屋に入ってくる彼に、普段の弾む足取りは見られなかった。

「ガレスかい?」ファースは自信なさそうな声で尋ねた。

目を見開いてガレスを見ながら、心苦しい様子でいるのがガレスにもわかった。そのほうが良いんだ、ガレスはそう思った。 ガレスに剣を振り上げるよう仕向けて決心させ、実際よりも偉大な者であると信じ込ませたのはファースなのだから。彼がそそのかさなかったら、どうなっていたかわからない。ガレスは試そうともしなかったかも知れない。

ガレスは激しく怒りながら彼のほうを向いた。やっと自分の怒りを向ける相手を見つけた。そもそも、ファースこそ自分の父を殺した張本人だ。この馬舎の愚かな少年がこの一連の混乱に自分を巻き込んだのだ。今となっては自分はできそこないの、マッギルの後継者の一人となっただけだ。

「お前なんか嫌いだ」ガレスは怒りで煮えくり返った。「お前の言った約束が今ではどうだ?私が剣を振りかざすだろうと言った確信は?」

ファースは緊張に息を呑んだ。言葉もなかった。何も言うことがないのは明らかだ。

「申し訳ありません、陛下」彼が言った。「私が間違っていました」

「お前のすることは間違いばかりだ」ガレスが鋭く言う。

確かにそうだ。考えれば考えるほど、ファースがいかに誤っているかを悟るばかりだ。実際、ファースがいなければ父はまだ生きていただろう。そしてこのような騒ぎに巻き込まれることもなかった。王位の重圧が自分にのしかかることも、すべてがうまくいかなくなることもなかったろう。ガレスは、自分が王になる前、父の存命中に過ごしていた平穏な日々が恋しかった。突然、元の状態をすべて取り戻したい衝動に駆られたが、それは不可能だった。何もかもすべてファースのせいだ。

「ここで何をしている?」ガレスが詰問する。

ガレスは明らかに緊張した様子で咳払いをした。

「えっと、召使たちが話していて・・・噂を聞いたものですから。ご兄弟があちこちで聞きまわっていると、耳に入ってきて。召使たちの働くところで、凶器を見つけるために汚物の落とし樋を探っているのが目撃されたって。父君を刺すのに使った短剣です」

その言葉にガレスは全身が冷たくなり、衝撃と恐怖で凍り付いた。これ以上ひどい日があろうか?

彼は咳払いをした。

「彼らは何を見つけたんだ?」ガレスが尋ねた。喉が渇き、ことばがうまく出てこない。

「わかりません、陛下。何か疑っているということしか」

これ以上深まることなど予想できなかったガレスのファースへの憎しみが一層強くなった。彼のへまさえなければ、凶器をきちんと始末してさえいれば、このような状況に置かれることもなかった。ファースのせいですきができてしまった。

「一度しか言わない」ガレスがファースに詰め寄り、これ以上はないほどの怖い顔で言った。「お前の顔など二度と見たくない。わかったか?私の前に二度と現れるな。お前を遠く離れた場所へ追放する。そしてこの城の敷居を再びまたぐことがあれば、お前を逮捕させる。」

「さあ、行け!」ガレスが叫んだ。

ファースは目に涙をため、振り向いて部屋から出て行った。廊下を駆けていく足音がずっとこだましていた。

ガレスは再び剣と儀式の失敗に思いをめぐらせた。自分で災難の口火を切ってしまったような気がしてならなかった。崖っぷちへと自分で自分を追い込み、ここから先は下降の一途をたどるだけのように感じられた。

父の部屋で、静けさの中に根が生えたように立ち尽くし、震えていた。自分が一体何を始めてしまったのかと考えながら。これほど孤独を感じ、自信を喪失したことはなかった。

これが王になるということなのか?


*


ガレスは石造りのらせん階段を早足で上り、次の階へ、城の最上階の胸壁へと急いだ。新鮮な空気が必要だった。考える時間と場所が。宮廷、臣民を見渡し、それが自分のものであることを確かめる王国で最高の場所が。悪夢のような一連の出来事があった後もなお、自分がいまだ王であることを確かめるための。

ガレスは従者たちも退け、たった一人で踊り場から踊り場へと、息を切らして走り続けた。一回だけある階に立ち寄り、身をかがめて息をついた。涙が頬を伝った。自分を叱る父の顔が、いたるところで目の前に浮かんだ。

「あなたなんか嫌いだ!」宙に向かってガレスは叫んだ。

嘲けるような笑いを確かに聞いたような気がした。父の声だ。

ガレスはここから逃げたかった。振り返り、走り続けてやがて最上階に着いた。扉から走り出ると、新鮮な夏の空気が顔に当たった。

深呼吸をして息をつき、太陽の光とあたたかい風を浴びた。父の王衣を脱ぎ、地面に投げ捨てた。暑くて、まとっていたくなかった。

胸壁の端に行き、城の壁につかまった。荒い息で宮廷を見下ろした。切れることのない人の波が、城から出て行く。儀式、自分の儀式が終わって帰る者たちだ。彼らの落胆がここからでも感じられた。誰もが小さく見える。皆が自分の支配下にあることに驚くばかりだった。

だが、それはどれくらい続くのだろう?

「王であるというのはおかしなものよ」老人の声がした。

ガレスは振り向いて驚いた。アルゴンがほんの数歩先に立っていた。白い外套と頭巾を身に着け、杖を手にしている。彼は口元に笑みを浮かべてガレスを見た。目は笑っていなかった。輝きを持った目がまっすぐに向けられ、ガレスは追いつめられた。多くを見抜く目だ。

アルゴンに言いたいこと、尋ねたいことはガレスには山ほどあった。だが、剣を振ることに失敗した今、それらの一つたりとも思い出せなかった。

「なぜ教えてくれなかったのだ?」ガレスは絶望を声ににじませながら聞いた。 「私が剣を振りかざすよう運命づけられていないと伝えることもできたであろう。恥を防ぐことも」

「私がなぜそうしなければならない?」アルゴンが尋ねた。

ガレスが睨み付ける。

「そなたは真の王の相談役ではない」ガレスが言った。「父の相談役は務めようとしていた。が、私にはそうしない」

「お父上は真の相談役を持つにふさわしかったからではないかな」アルゴンが答えた。

ガレスは怒りを募らせた。この男が憎くて、非難した。

「そなたは私には必要ない」ガレスが言った。「父が雇った理由はわからないが、宮廷にそなたはもう要らない」

アルゴンが笑った。虚ろで、怖ろしい声だった。

「お父上は私を雇ったりなどしておられない。愚かな者よ」彼が言う。「その先代のお父上もだ。ここにいるのが私の運命なのだ。実際には、私が彼らを雇ったのだ」

突然、アルゴンは一歩踏み出すと、魂を見抜くようにガレスを見た。

「同じことがそなたにも言えるだろうか?」アルゴンは尋ねる。「そなたもここにいるよう運命づけられているのだろうか?」

その言葉はガレスの痛いところを突き、ぞっとさせた。それこそ、自分でも考えていたことだった。これは脅しではないかと思った。

「血によって君臨する者は、血で支配する」アルゴンはそう告げると、素早く背を向け、歩き始めた。

「待ってくれ!」ガレスが大声で言う。アルゴンを行かせたくなかった。答えが欲しい。「それはどういう意味だ?」

ガレスには、自分の統治が長くは続かないというメッセージをアルゴンが伝えているように思えてならなかった。アルゴンが言いたかったのはそのことか、知る必要があった。

ガレスはアルゴンを追った。だが、近づいた瞬間、目の前でアルゴンが消えた。

振り返って周囲を見回したが、何も見えなかった。どこかで虚ろな笑い声が響くだけだった。

「アルゴン!」ガレスは呼んだ。

もう一度振り返り、天を仰いだ。そして片膝をつき、頭をのけぞらせて甲高く叫んだ。

「アルゴン!」

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