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第六章

ソアは広大な競技場を横切って全力で疾走した。王室の衛兵たちの足音がすぐ背後に聞こえる。彼らは暑く、ほこりっぽい場所で悪態をつきながらソアを追った。前方には新兵、リージョンのメンバー数十人が散らばっていた。皆、自分と同じような少年たちだが、自分よりも年が上で力もある。訓練中で、あらゆる編成でテストを受けている。武器の槍を投げている者、槍投げ競技用の槍で投擲をしている者、槍騎兵用の槍の握り方を練習している者も数名いた。遠くの的をねらい、外すことはめったになかった。これは自分の得意な競技であり、彼らは手ごわそうだった。

中には本物の騎士も数十名いた。シルバー騎士団のメンバーだ。半円形に広がって動きを観察し、審査している。誰が残り、誰が家に帰されるのか決めるのだ。

ソアは自分の力を証明し、印象づけなければならないとわかっていた。すぐに衛兵たちが追ってくる。もし自分を心に留めてもらうチャンスがあるとしたら、今しかない。でもどうやって?中庭を走っているとき、頭の中で考えが渦巻いた。引き下がるものか。

ソアが競技場を走っていることに皆が気づき始めた。新兵の中には、手を止めて振り向く者もいた。騎士もだ。すぐに、ソアは自分に関心が集まっているのを感じた。皆とまどっている。競技場を走り、衛兵3人に追われている自分のことを、一体誰なのだろうと思っているに違いないとソアは考えた。こんなやり方で印象づけたいとは思っていなかった。今までずっとリージョンに入隊したいと夢見てきたが、こんなことが起きるとは想像だにしていなかった。

ソアは走りながら何をすべきか考えていたが、とるべき行動はおのずから明らかになった。新兵で一人の体格の良い少年が、皆を感心させようとしてソアを止める役を買って出たのだ。背が高く、筋肉隆々なこの少年は、体がソアの二倍ほどある。ソアの行く手を阻もうとして木の剣を振り上げた。ソアには、彼が自分を倒して笑いものにすることで、他の新兵よりも優位に立とうとしているのがわかった。

そのことがソアを怒らせた。彼と闘ういわれはなかったし、自分がするべき喧嘩ではなかったが、他の皆よりも優位に立つためだけにこの闘いに応じようと決めた。

二人が近づくにつれ、ソアはこの少年の大きさに目を疑った。塔のように自分の前に立ちはだかってこちらを睨んでいる。額を覆う黒髪は豊かで、ソアが今まで見た中で最も大きく四角いあごをしている。この少年を相手にどう闘えばよいのかわからなかった。

少年は木の剣でソアに襲いかかってきた。ソアは素早く動かなければやられる、とわかっていた。

反射神経が反応した。本能的に投石具を取り出し、石を引いて少年の手に向かって投げた。石は的を射て剣に当たり、少年が手を降ろしたときに剣は手を離れ、宙に飛んだ。少年は叫び声をあげ、自分の手をつかんだ。

ソアは時間を無駄にしなかった。彼は突進した。すきを狙って空中に飛び上がり、少年を蹴って、二本の足が正面から胸に食い込んだ。少年は胸板が厚いため、樫の木を蹴っているようなもので、ほんの数インチ後ろによろめいただけだった。一方ソアは行き詰って、少年の足元に落ちた。ドシリと音を立てて着地しながら、これはまずいぞ、とソアは思った。耳が鳴っていた。

ソアは立ち上がろうとしたが、少年のほうが一歩早かった。背中につかみかかったかと思うとソアを投げ飛ばした。土の中に顔から落ちた。

少年たちがあっという間に二人を取り囲み、歓声を上げた。ソアは顔が赤くなり、自尊心を傷つけられた。

ソアが振り向いて立ち上がったが、少年は素早かった。既に自分を上から押さえつけている。いつの間にかレスリングとなり、そうなると少年の重さはとてつもなかった。他の新兵たちが輪になり、血を求めて叫んでいるのが聞こえてきた。少年が上から睨んでいる。両手の親指を伸ばし、ソアの目に近づける。信じられなかった。自分を本当に傷つけようとしているのだ。それほど人よりも優位に立ちたいのか?

最後の瞬間にソアは頭をそらしてよけ、少年の手は地面に着いた。そのすきに体を転がして少年から逃れた。

ソアは立って、やはり立ち上がった少年に対峙した。突進してソアの顔に飛び掛ってきた少年を土壇場でかわした。空気が顔のそばで揺れた。当たっていたら、あごが折れていただろうと思った。ソアは手を挙げて少年の腹にげんこを食らわせたが、相手はびくともしない。木を殴っているようなものだ。

ソアが反応する前に、少年が顔に肘鉄を食らわせた。ソアはめまいがして後ろによろめいた。ハンマーで殴られたようだった。耳が鳴った。

ソアがよろめきながら息を整えようとしている間に、少年は突進して胸を強く蹴ってきた。ソアは後ろに飛ばされ、地面に背中から落ちた。他の少年たちがはやし立てた。ソアはくらくらして、上体を起こして座ろうとしたが、その瞬間少年がもう一度襲いかかった。飛び上がって、またもや顔を激しく殴った。ソアは再び背中から倒れ、そのまま動かなかった。

皆の抑え気味の喝采が横たわっているソアに聞こえてきた。顔への一撃で鼻から流れた血の塩辛い味がした。痛みでうめいた。見上げると、大柄の少年が向こうを向いて、勝利をほめたたえる友人たちのほうへ歩いていくのが見えた。

ソアはここでやめたかった。この少年は大きすぎる。闘っても無駄だ。これ以上罰を受けることもできない。だが、自分の中の何かが駆り立てる。負けるわけにはいかない。この人たちの前で。

あきらめるな。起きろ。起き上がるんだ!

ソアは力を振り絞った。うめきながら、体を回し、手と膝、そしてゆっくりと、足をついて立ち上がった。血を流し、目は腫れ上がってよく見えない。荒く息をしながら、少年の正面に立ち、こぶしを振り上げた。

少年は振り向いてソアを上からにらんだ。彼は信じられない、という顔で首を振った。「寝ていたほうが良いんじゃないか」と、ソアの方へ戻りながら脅すように言った。 「そこまでだ!」声がした。「エルデン、下がりなさい!」

騎士が突然近くにやって来た。二人の間に入り、手を挙げてエルデンがソアに近づくのを制した。皆は静まり、騎士のほうを見た。誰もが敬意を表する人物であることは明らかだった。

ソアは見上げて、騎士の存在に畏怖の念を抱いた。背が高く肩幅は広くて、四角いあごをしている。髪は茶色く、きちんと手入れされていた。年は20代だ。ソアは人目でこの騎士が気に入った。第一級のよろい、磨き上げられた銀でできた鎖かたびらは王室の印、マッギル家のはやぶさの紋章を付けていた。ソアの喉は渇きを覚えた。王室の一員を前にしているのだ。信じられなかった。

「説明しなさい。」彼はソアに言った。「なぜ招かれてもいないのにこの競技場に入ってきたのだ?」

ソアが答える前に、突然王室の衛兵が3人、輪の中に分け入った。衛兵隊長が息を切らしてそこに立ち、ソアを指差した。

「この少年は我々の命令に背きました!」その衛兵が叫んだ。「手枷をはめ、王室の地下牢に連行します!」

「私は何も悪いことはしていません!」ソアが抗議した。

「今したではないか?」衛兵が言った。「招かれずに王の敷地内に侵入しただろう?」

「私が欲しかったのはチャンスだけです!」ソアは目の前の、王族の騎士のほうを向いて訴えた。「私はリージョンに入隊するチャンスが欲しかっただけです!」

「この訓練場は招かれた者のためにあるのだ。」しわがれた声がした。

輪の中に進み出たのは50代の戦士だった。身幅が広くがっしりしていて、髪はなく短いあごひげと鼻を横切る傷痕があった。生涯を通じて職業軍人であった人に見えた。よろいの印と胸の金のピンからすると、司令官のようだった。ソアはその人を見て心臓が高鳴った。将軍だ。

「私は招かれてはおりませんでした。」ソアは言った。「それは確かです。ですが、ここに来るのが私の一生の夢でした。自分に何ができるか見ていただくことだけが望みです。ここにいる新兵たちに引けを取らないと思います。それを証明するチャンスを一度だけください。お願いします。リージョンに入ることだけを夢見てきました。」 「この戦場は夢を見る者のためにあるのではないのだぞ、少年よ。」しわがれた声の返事が返ってきた。「戦う者のためにあるのだ。我々の規則に例外はない。新兵は選ばれたのだ。」

将軍がうなずくと、王室の衛兵がソアのところにやってきて手枷をかけた。

その時突然、王族の騎士が進み出て、手を挙げ衛兵を止めた。「恐らく、場合によっては例外があってもよかろう。」と彼は言った

衛兵は呆然として騎士を見上げた。明らかに何か言いたそうにしていたが、王族への敬意から口を慎んだ。

「少年よ、そなたの気概に敬服する。」騎士は続けて言った。「追い払う前に、そなたができることを見たいと思う。」

「しかし、ケンドリック様、私どもの規則がございます。」将軍が明らかに機嫌を損ねて言った。

「王族が規則を作る。」ケンドリックが断固として言った。「そしてリージョンは王族に従う。」

「私どもは、あなたではなく、お父上、国王に従います。」将軍も同様に反抗的にそう返答した。

よそよそしい雰囲気になり、緊張した空気がみなぎった。ソアは自分が火種を作ったことが信じられなかった。

「私は父をよく知っている。父ならどうしたいかもよくわかっている。この少年に試させたいだろうと思う。それがすなわち我々が行うべきことなのだ。」

しばしの間張り詰めた空気があったが、最後に将軍が折れた。

ケンドリックはソアのほうを向いた。目をソアに据えたままだった。茶色の真剣な目で、王子らしい、また同時に戦士の顔つきをしていた。

「そなたにチャンスを一回与える。」ソアに言った。「あの的を射ることができるか見てみよう。」

彼は競技場の向こう側にある干草の山を指した。中央に小さく、赤いしみがつけてある。槍が何本も干草にささっていたが、赤い的の中には一本もなかった。

「もしそなたに、他の少年たちが誰もできなかったことができるのなら、ここからあの的を射ることができるのなら、入隊を許可しよう。」

騎士は脇へ寄った。ソアは彼の視線が自分に注がれているのを感じた。

槍の入った棚を見つけ、慎重に目を通した。今まで見たことのあるどの槍よりも質の良いものばかりだった。堅い樫でできており、質の良い革で覆われていた。前に進むとき、心臓が激しく鳴った。手の甲で鼻の血を拭い、いまだかつてないほど緊張した。不可能に近い課題を与えられたのは明白だ。しかしやらねばならない。

ソアは手を伸ばすと一本の槍を選んだ。長過ぎも、短か過ぎもしないものだ。手で重さを量った。重く、頑丈だ。家で使っていたようなものとは違う。同時に、これがぴったりだとも感じた。もしかしたら、本当にもしかしたら、的に当てることができるかも知れないと思った。とにかく、槍投げは投石の次に得意な技だ。長いこと大自然の中を歩き回る日々を過ごし、的にするものは沢山あった。いつだって、兄たちさえ当てられなかった的も射ることができた。

ソアは目を閉じ、深呼吸した。もし外せば、衛兵たちが自分に踊りかかり、牢屋へ連れて行かれるであろう。そしてリージョンに入隊するチャンスは二度とやってこない。この一瞬に、自分が今まで夢見てきたことのすべてがかかっていた。

全身全霊で神に祈った。

目を開けると、ソアはためらうことなく二歩前に進み出て、手を後ろに引くと槍を投げた。

空を飛んでいく槍を息を止めて見つめた。

お願いです、神様。お願いします。

槍はどんよりした沈黙の中を貫き、そこに注がれた何百もの目をソアは感じ取った。そして、永遠にも思える時間が過ぎた後、音がした。間違いなく、槍が干草にささった音だ。ソアは見る必要もなかった。彼にはわかっていた。完璧な投擲であったと。彼の手を離れた時の槍の感触、手首の角度が、必ず当たると教えてくれた。

ソアは思い切って見た。そして自分が正しかったことがわかり、本当にほっとした。槍は赤い印の中心に当たっていた。的を射た唯一の槍である。彼は他の新兵の誰にもできなかったことをやり遂げたのだ。

驚きの沈黙が彼を包んだ。他の新兵たち、そして騎士たちが呆然と自分を見つめているのを感じた。

やがてケンドリックが前に進み、手の平でソアの背中を叩いた。満足の響きだった。彼は歯を見せて笑った。

「私は正しかった。」と彼は言った。「そなたはここに残るぞ!」

「なんと、殿下!」衛兵が叫んだ。「それは不公平です!この少年は招かれていなかったのですから!」

「彼は的を射たのだぞ。私には十分な招待だと思える。」

「他の者よりもずっと若く、小柄です。これは子どもの軍隊ではありません。」将軍が言った。

「私なら的を射ることのできない不器用者になるよりは、それができる小柄な兵士に なろうと思うが。」と騎士は答えた。

「ついてたな!」とソアが闘った大柄の少年が言った。「もしもっとチャンスがあれば俺たちにだってできただろう!」

騎士はその少年の方を向き、見つめた。

「そうなのか?」彼は尋ねた。「では今見せてもらおうか?ここに残れるかどうか賭けてはどうか?」

少年はあわてて、恥ずかしそうに頭を下げた。提案に応じる気がないのは明らかだった。

「ですが、この少年はよそ者です。」将軍が抗議した。「彼がどこから来たのかさえわかりません。」

「低地から来ました。」声がした。

皆が、声の主を見ようと振り返った。ソアはそうする必要がなかった。聞き覚えのある声だったからだ。自分を子どもの頃ずっと悩ませた声だ。一番上の兄、ドレークの。

ドレークは他の二人の兄と共に前に進み出て、非難の目でソアを睨みつけた。

「彼の名は、西王国の南の地方、マクレオド族のソアグリンです。4人兄弟の一番下です。我々は皆同じ家から参りました。彼は父の羊の世話をしています!」

少年たち、騎士たちが一斉に吹き出した。

ソアは顔が赤くなるのを感じた。その瞬間死んでしまいたかった。これほど恥かしい思いをしたことはない。自分の栄光の時を奪い、自分をおとしめるためなら何でもするところがなんとも兄らしい。

「羊の世話だと?」将軍が言った。

「では、我々の敵は彼に用心せねばなりませんね!」別の少年が言った。

また笑い声の合唱が起こった。ソアの屈辱感は一層増した。

「もうたくさんだ!」ケンドリックが厳しく言った。

次第に笑い声は鎮まった。

「私なら、人を笑うことしかできないそなたたちよりも、的を射ることのできる羊飼いをいつでも欲しいと思う。」ケンドリックは更にそう付け加えた。

それで少年たちはすっかり黙り込んだ。もう誰も笑っていない。

ソアはケンドリックに対する感謝の気持ちでいっぱいになった。自分にできる限りの方法でご恩返しをしようと誓った。ソアに起こったこととは関係なく、この人物は少なくとも自分の名誉を回復してくれた。

「少年よ、自分の友の告げ口をするのは戦士のするべきことではない。血のつながった家族なら尚更だ。そのことをわかっているか?」騎士はドレークに尋ねた。

ドレークは下を見下ろし、あわてた。ソアが見たことのない光景だった。

しかしもう一人の兄、ドロスが前に進み出て抗議した。「ですが、ソアは選ばれてもいません。私たちは選ばれました。彼は後を追って来ただけです。」

「僕は追って来た訳ではありません。」ソアがやっと口を開き、主張した。「リージョンのために来たのです。兄のためではありません。」

「なぜここに来たかは問題ではない。」将軍が困って、進み出て言った。「皆の時間が全部無駄になった。槍が当たったのは確かに良かったが、やはり入隊はできない。保証人となる騎士も、彼と組む騎士の従者もいない。」

「私が組みます。」声がした。

ソアは他の皆と一緒に振り返った。数フィート離れたところに、自分と同じぐらいの年の少年が立っているのを見て驚いた。彼は金髪と明るい緑色の目をしているのを除いて自分とよく似ていた。美しい王家のよろい、紅と黒の印のある鎖かたびらを身に着けている。別の王族だ。

「有り得ない」と将軍が言った。「王族が平民と組むことはありません。」

「私は自分が選択したとおりにすることができます。」少年は言い返した。「私がソアグリンのパートナーになると言いました。」

「私たちが賛成したとしても」と将軍が言う。「それは関係ありません。保証人となる騎士がいないのですから。」

「私が保証人になろう。」声が聞こえた。

皆が別の方を見ると、息をのむ音が皆の間から静かに漏れた。

ソアが振り返ると、馬上に美しく輝くよろいに身を固め、ベルトに武器を差した騎士が見えた。騎士は輝いていて、太陽を見ているようだった。その物腰、振る舞い、そして兜の印から、他の者とはかけ離れていることがソアにもわかった。最も優れた者だ。

ソアはこの騎士に見覚えがあった。絵画で見たことがあり、また伝説を耳にしたこともある。エレック。信じられなかった。リングで最高の騎士だ。

「ですが、あなた様には既に従者がおられます。」将軍が反論した。

「では二人持つことにしよう。」とエレックが深みのある、自信に満ちた声で答えた。

驚きのあまり皆の間に沈黙が流れた。

「ではもう異論もあるまい。」ケンドリックが言った。「ソアグリンには保証人とパートナーができた。問題は解決した。もうリージョンの一員だ。」

「だが、あなたがたは私のことを忘れていらっしゃる!」衛兵が前に出て叫んだ。「何があっても、この少年が衛兵の一人を攻撃したことの言い訳にはなりません。彼は罰を受けねばなりません。公平に扱われなければなりません!」

「正義は行われる。」ケンドリックは厳格に答えた。「ただし私の裁量でだ。そなたのではない。」

「ですが殿下、少年をさらし台に送らねばなりません!見せしめのために罰を与えねば!」

「これ以上話を続けるのであれば、そなたがさらし台に行くことになる。」ケンドリックは衛兵を睨みながら、厳しい声で言った。

ついに衛兵は折れた。顔を赤らめ、ソアを睨みながらしぶしぶ振り返って立ち去った。

「ではこれで正式に決まった。」ケンドリックが大きな声で宣言した。「ソアグリン、国王のリージョンへようこそ!」

騎士たち、少年たちが皆歓声を上げた。そして皆訓練に戻って行った。

ソアは衝撃のあまり呆然となっていた。とても信じられなかった。国王のリージョンのメンバーになった。夢のようだった。

ソアはケンドリックのほうを向いた。言葉にし尽くせないほど感謝していた。これまで自分のことを気にかけ、自分をわざわざ探し出し、保護してくれた人などいなかった。変な感じがした。自分の父親よりもこの人のことを身近に感じ始めていた。

「何とお礼を申し上げてよいのか」ソアは言った。「深く感謝いたします。」

ケンドリックは微笑んだ。「私の名はケンドリック。いずれ良くわかるようになるだろう。私は国王の長男だ。そなたの勇気には敬服した。この軍団の良き一員となるだろう。」

ケンドリックは振り向くと急いで去った。その時、ソアと闘った大柄の少年がのろのろと通りかかった。

「背中に気をつけろよ。」少年が言った。「同じ兵舎で寝るからな。安全だなんて片時も思うな。」

少年はソアが一言も言わないうちにさっさと行ってしまった。もう敵ができた。

ここで自分に何が起きるのだろうと考え始めていた。その時、国王の末の息子が急いで彼のところへやってきた。

「あいつのことは気にするな。」とソアに言った。「いつも喧嘩を売っているんだ。ぼくはリース。」

「ありがとう。」手を伸ばしながらソアは言った。「僕をパートナーに選んでくれて。そうしてもらえなかったらどうなっていたか」

「あの乱暴者に立ち向かった人を選べて僕も嬉しいんだ。」とリースは満足そうに言った。「良い闘いだった。」

「冗談だろう?」ソアは顔の乾いた血を拭きながら聞いた。みみず腫れのところが膨らんでいるのを感じた。「打ちのめされたんだよ。」

「でもあきらめなかったじゃないか。」リースが言った。「すごいよ。僕たちだったらみんな倒れたままだったろうと思う。それにあの槍投げもすごかった。どうやってあんな風に投げられるようになったの?僕たち一生ずっとパートナーだからね!」彼は握手する時にソアを意味ありげに見た。「それに友達にもなるだろう。そんな気がする。」

ソアは握手する時、一生の友達ができたように思わずにはいられなかった。

突然、彼は横から突かれた。

振り向くと、そこにはあばたのある、細長い顔の年上の少年がいた。

「私はフェイスゴールド、エレックの従者だ。君は今回第二従者になった。つまり、私に従うということだ。あと数分で馬上試合が始まる。王国で最も有名な騎士の従者になって、ただ立っているつもりかい?ついて来るんだ!さあ早く!」

リースは既に行ってしまっていた。ソアも振り向き、従者が訓練場を横切って走っていく後を追った。どこに行くのかさっぱりわからなかった。どこでも構わなかった。ソアは心の中で歌っていた。

夢をかなえたのだ。

第七章

ガレスは王族がまとう立派な衣装のまま、姉の婚礼のために各地からなだれ込んだ人ごみをかき分け、宮廷を急ぎ足で突っ切って行った。彼は腹を立てていた。父との会見のショックがいまださめやらなかった。なぜ自分が飛ばされるなどということがあり得るのだろうか?説明がつかない。自分は年長の嫡子である。常にこの方法でやってきた。ガレスは生まれたときからずっと、自分がいずれ国を治めるものと思ってきた。そうでないと考える理由もなかった。

途方もないことだ。自分を差し置いて、自分より若い兄弟だなんて。しかも女の子だ。もし噂が広まれば、自分は国中で物笑いの種だ。歩きながら、腹を打たれて空気を全部抜かれたみたいな感じがして、息もつけない状態だった。

彼はつまずきながら大衆とともに姉の結婚式に向かっていた。回りを見回すと、あらゆる色のガウンや、途切れない人の流れ、異なる地方からのいろいろな人々が見えた。平民とこれほど近いところにいるのが嫌だった。貧しい者が富める者と交わり、高原の向こう側、東の王国の野蛮人たちも入国を許される唯一の時だった。姉が彼らの一人と結婚をするなどということが、ガレスにはいまだに考えられなかった。父の抜け目ない政略、二つの王国間の和平を築くための下手な試みだった。

もっと不思議なのは、姉がこの相手を気に入っているように見えることだ。ガレスにはどうしてか到底わからなかった。姉という人を知る限り、姉が気に入ったのはこの男ではなく、その肩書き、自分がその地方の王妃となるチャンスだろうと思う。彼女は自分にふさわしいものを手に入れるだろう。彼らは皆不作法で、高原の向こう側の者たちだ。ガレスが思うに、彼らには自分の持つ礼儀正しさや粋、洗練といったものが欠けている。それは彼の知ったことではなかった。姉が満足しているなら、結婚すれば良い。王位継承権を持つ兄弟が一人減るだけのことだ。実際、彼女が遠くに行けば行くほど都合が良かった。

こうしたことはもはや彼の関知するところではない。今日から、もう国王になることはないのだ。今となっては、父の国の、名もない王子の一人に格下げされるだけだ。もう権力への道は閉ざされた。月並みな人生が待っているだけだ。

父は自分のことを過小評価した。いつもそうだった。父は自分自身を政治的で抜け目ないと思っていた。が、ガレスは父よりももっと狡猾だった。例えば、ルアンダをマクラウド家に嫁がせることで、父は自分自身を優れた政治家だと思っているようだが、ガレスは父よりも先を見ていた。もっと多くの悪影響を考慮に入れることができ、一段階先を見ていた。これがどんなことにつながるか、わかっていた。結局のところ、この結婚でマクラウド家をなだめられるどころか、彼らをつけ上がらせるだけだ。相手は粗野であり、この和平の提案を力の象徴としてよりは、脆弱さを表わすものとして見るだろう。両家の絆になど関心がないだろう。そして姉が嫁いだと同時に攻撃を計画するのでは、とガレスは確信している。すべて策略だ。ガレスはこのことを父に告げようとしたが、父は耳を貸そうとしなかった。

自分にはもはや関係ない。所詮、自分は今では王子の一人、王国の歯車の一つでしかないのだから。ガレスは、そのことを思って熱くなった。そしてその瞬間、今までは考えもしなかったような憎しみを父に対して感じた。大衆と肩と肩が触れ合うほどもみくちゃにされながら、恨みを晴らし、最後に王位に就くための方法を想像した。手をこまねいて見ていることはできない、それだけは確かだ。王位を妹にくれてやることなどできない。

「そこに居たんだね。」声が聞こえた。

ファースだった。きれいな歯を見せて楽しそうに微笑みながら、こちらへ歩いてくる。18歳で、背が高くやせたファースは、声が高く、滑らかな肌と血色の良い頬をしていた。ガレスの今の恋人だ。いつもならファースに会うのは嬉しいことだが、今はそんな気分ではない。

「今日は僕のことを一日中避けていたような気がするけど。」ファースは歩きながら腕を組んできて、そう言った。

ガレスはすぐに腕を離した。そして誰も見ていなかったか確かめた。

「 ばかじゃないのか?」ガレスは怒った。「人前で二度と腕を組んだりするな。絶対だぞ。」

ファースは俯き、赤くなった。「ごめんなさい。」と彼は言った。「何も考えなかった。」

「考えなかったのはいいさ。でも今度やったら、もう会わないぞ。」ガレスは叱責した。

ファースは更に赤くなった。本当に申し訳なく思っているようだった。「すみません。」彼は言った。

ガレスはもう一度チェックして誰も見ていなかったのを確かめると、少し気が楽になった。

「どんな噂話があるかい?」ガレスは話題を変え、暗い思いを振り払おうとして尋ねた。

ファースはすぐに元気になり、微笑みを取り戻した。

「みんな期待して待っているよ。君が後継者に指名された、っていう発表をね。」

ガレスが俯いた。ファースが覗き込む。

「そうじゃないの?」ファースは怪しんで聞いてきた。

ガレスは歩きながら顔を赤くした。ファースとは目を合わせない。

「選ばれなかった。」

ファースは息をのんだ。

「父は僕を避けたんだよ。考えられるかい? 妹を選ぶために。」

今度はファースが下を向いた。驚いたようだった。

「有り得ない。」彼は言った。「第一子じゃないか。向こうは女だ。有り得ないよ。」繰り返して言った。

ガレスは彼を見て、冷たく言った。「嘘はつかないよ。」

二人はしばらく黙ったまま歩いた。更に混んでくるに従い、ガレスは周囲を見回して自分がどこにいるか気が付き、理解した。宮廷は本当に混雑していた。何千人もの人間が入り口という入り口からなだれ込んでいる。入念に準備された結婚式の舞台を皆が目指して歩いた。舞台の周りには、赤いベルベットで覆われて、金の縁取りがしてある分厚いクッションが付いた、少なくとも千個の良い椅子が設置されていた。召使たちが人を座らせたり、飲み物を運んだりして通路を行ったり来たりしている。

花が撒かれた、果てしない長さのバージンロードの両側に、マッギル家とマクラウド家両家の人々が座り、その境界ははっきりと引いてあった。それぞれの側に何百人もの人間がいた。マッギル家は一族の深い紫色、マクラウド家は燃えるようなオレンジ色で誰もが着飾っていた。ガレスの目には、両家がこれ以上は無理だと思えるほど違っているように映った。両家とも着飾ってはいるものの、マクラウド家はただ単に見せかけのおしゃれをしているだけのように感じられた。服の下は野蛮人だ。ガレスには、彼らの表情、押し合いへし合いながら動くさま、大声で笑う様子にそのことが見て取れた。王族の衣装で隠し切れない、表面下の何かがあった。この国の門の中に彼らがいることが嫌でたまらなかった。結婚式のすべてが嫌だった。父が下した、もう一つのばかげた決定だった。

もしガレスが王であったら、違う方法を取っていただろう。結婚はやはり命じていただろうが、深夜まで待ってマクラウド家の者が酒に酔った頃、広間の扉にかんぬきを掛けて火をつけ、火事で焼き殺してしまったであろう。全員、一度に片付けてしまうのだ。

「残酷だな」ファースは結婚式場のもう片方の列を見やりながら言った。「君の父君がなぜあいつらを招きいれたのか想像もつかない。」

「後でおもしろいことになるだろう。」ガレスは言った。「父は敵に我が国の門をくぐらせ、婚礼の日の競技を開催することにした。これは小競り合いを生むことになるんじゃないか?」

「そうかい?」ファースは聞いた。「闘いが?ここで?こんなに兵士がいるのに?婚礼の日に?」

ガレスは肩をすくめた。マクラウド家なら何でもやりかねないと思った。

「婚礼の日の体面なんてものはあいつらには何の意味も持たない。」

「でもこっちには兵士が何千人もいる。」

「向こうもさ。」

ガレスは振り返って、長い兵士の列を見た。マッギル家とマクラウド家の。それぞれの側の胸壁に並んでいる。小競り合いを予測していなければ、これほどたくさんの兵士を連れては来なかっただろう、ということがガレスにはわかっていた。このような折であっても、美しい装束に身を包んでいても、尽きることのない料理に夏至の時期、贅を尽くした場であっても、そうしたことに関わらず、緊張した空気が流れていた。誰もがぴりぴりしていた。皆肩をいからせ、肘を張る様子からガレスにはそれがわかった。お互いを信用していないのだ。

自分に運が向くかも知れない、とガレスは思った。誰かが父の心臓を刺すかも知れないと。そして結局自分が王位を継ぐことがあるかも知れない、と。

「僕たち一緒には座れないだろうね。」座席に近づくにつれ、ファースががっかりしたように言った。

ガレスは彼を軽蔑の目で見た。「どこまで愚かなことを」毒のある声で吐き捨てるように言う。

この馬屋の少年を恋人に選ぶなんて、自分は浅はかだったのでは、と真剣に考え始めていた。 彼が感傷的になるのをすぐに辞めさせない限り、二人とも追い出されるかもしれない。

ファースは恥ずかしさのあまり俯いた。

「あとで馬屋で会おう。もう行け。」ガレスはそう言うと、ファースを軽く押した。ファースは人ごみの中に消えた。

突然、ガレスは冷たい手が自分の腕をつかむのを感じた。心臓が止まりそうになり、見つかったのかと思った。が、長い爪と細い指が皮膚に食い込むのを感じた。そして自分の妻へレナだとすぐにわかった。

「こんな日に恥をかかせないで下さいな。」彼女は憎しみを込めた声で言った。

彼は振り向いて彼女の方を見た。すっかり着飾って、美しかった。長く、白いサテンのガウンを羽織り、髪はピンで高く結い上げていた。一番良いダイアモンドのネックレスを着け、顔は化粧をして滑らかだった。ガレスは客観的に見て美しい、と思った。結婚した日と同じように。それでも、魅力は感じなかった。結婚で自分の性分を捨てさせようとしたのも、父の考えだった。だがその結果得たものはいつも不機嫌な配偶者であって、彼の性向について更に宮廷の憶測を生んだだけだった。

「あなたのお姉さまの婚礼の日よ。」ヘレナは責めた。「今日くらい、夫婦のように振舞っても良いでしょう。」

彼女は彼と腕を組み、ベルベットの綱で仕切られた場所のほうへと歩いていった。2名の衛兵が夫妻を通し、二人は通路の基点辺りで他の王族に合流した。

トランペットが鳴り、人々の声も次第に静まった。ハープシコードの優しい調べが始まり、それに合わせるように通路に花が再び撒かれた。夫婦らは腕を組み、王族の行列が始まった。ガレスはヘレナに引かれ、通路を行進して行った。

ガレスは、自分の愛をどうしたら本物に見せられるか見当もつかず、ひどくぎこちなく、目立つような気がした。何百もの人の目が自分に注がれているような気がし、そうではないとわかっていても、皆が自分のことを審査していると思わないではいられなかった。通路は短かくはなかった。終点に達し、祭壇の姉の脇に立って終わりとなるのが待ちきれなかった。また、ガレスは父に会った時のことも考えずにはいられなかった。ここにいる観衆は既に知らせを聞いているだろうか、と考えたりもした。

「今日、悪いニュースを聞いた。」やっと終点に着き、自分の方を向いていない時に、彼はヘレナにささやいた。

「私が知らないとでも思っているの?」彼女は鋭く言った。

ガレスは驚いてヘレナを見た。

彼女は蔑むように彼を見返した。「私にはスパイがいるのよ。」

彼は目を細め、妻をこらしめたくなった。なぜそんなに平然としていられるんだ?

「私が王でなかったら、君は決して王妃にはなれないんだよ。」彼は言った。

「私は王妃になると思ったことはないわ。」彼女が答えた。

ガレスはもっと驚いた。

「国王が指名なさるとは思っていなかったもの。」ヘレナが付け加えて言った。

「どうしてそうするものですか?だってあなたは指導者なんかじゃなくて、恋にうつつを抜かす人ですものね。私にじゃないけれど。」

ガレスは顔が赤くなるのを感じた。

「君だって僕のことを愛してはいないよね。」彼は妻に向かって言った。

今度は彼女の顔が赤くなった。隠れた恋人がいるのは彼だけではなかった。ガレスには専属のスパイがいて、ヘレナが夫の弱みにつけこむようなことをしていたのを知らせた。これまで彼はヘレナの好きなようにさせてきた。彼のことについて触れず、そっとしておいてくれる限りは。

「私には選択肢をくれないのね。」彼女が答えた。「ずっと一生一人でいろと言うの?」

「私が誰だか分かっていたはずだ。」ガレスが答える。「その上で私と結婚したのではないか。愛ではなく、権力を選んだ。驚いたふりなどするな。」

「私たちの結婚はお膳立てされたものだったわ。」彼女が言う。「私には選ぶ権利なんてなかった。」

「でも反対はしなかった。」彼は答えた。

今日ガレスには彼女と言い争う元気などなかった。彼女は有益な人間であり、あやつり人形であった。ヘレナのすることには我慢もできるし、時折役にも立つのだ。あまり彼を困らせない限りは。

皆が父に付き添われてバージンロードを歩いている姉のほうを見ている時、ガレスは最大の皮肉をもって眺めていた。父は、厚かましいことに、 姉に付き添いながら涙を拭い、悲しいふりをする図太さまで持ち合わせていた。最後まで役者である。しかしガレスの目には、失策の多い愚か者にしか映らない。娘を嫁がせる純粋な悲しみが父にあるなどガレスには想像だにできない。マクラウド王国の狼どものところにやるのだから。ガレスは、結婚にまつわるすべてを楽しんでいるルアンダのことも同じように見下していた。自分たちよりも劣る人々のところへ嫁すのを、気にもしていないようだった。彼女もまた権力を求めていた。冷血で計算高い。その意味では、兄弟のなかでも自分に最もよく似ていた。ルアンダとはうまがあう点もあった。互いのことを思いやる気持ちはなかったが。

ガレスは早く式が終わらないかとジリジリしながら、体重を両足に移した。

式は最初から最後まで苦痛だった。アルゴンが祝福をし、まじないを唱えながら儀式を行った。すべて見え透いた真似事だ。ガレスは見ていて気分が悪くなった。これは政治的理由による両家の結びつきだ。なぜそう呼べないのだろうか?

ありがたいことに、直に式は終了した。二人がキスをした時、 民衆は盛大な歓声を上げて立ち上がった。ホルンが鳴り、結婚式の完璧な秩序が、制御された混沌へと変わった。王族たちは通路を戻って、パーティ会場へと進んだ。

皮肉者のガレスでさえ、その素晴らしさに感銘を受けた。今回、父は金を惜しまなかった。目の前に、あらゆる種類のテーブル、ごちそう、ワイン樽、途切れることなく並ぶ豚、羊、子羊のローストが広がっていた。

その後ろでは、皆がメインイベントである競技の準備をしていた。投石、槍投げ、アーチェリーの的が用意されていた。そしてその中央に騎馬試合のコースがあった。 大衆が既にその周りに溢れかえっていた。

彼らはそれぞれの騎士を応援するよう分かれていた。マッギル家では、最初に登場するのはもちろんケンドリックで、よろいに身を固めて馬に乗り、その後に数十名の知バー騎士団のメンバーが続いた。が、他の者と離れて、エレックが白馬で登場すると、民衆はその威厳に打たれて沈黙した。皆の注目を集める磁石のようだった。ヘレナまでが前に乗り出したので、ガレスは彼女が他の女性同様エレックにのぼせているのに気づいた。

「エレックはそろそろ相手を選ぶ年頃なのに、まだ結婚していないのね。国中の女性誰もが彼と結婚したがるでしょう。どうして誰も選ばないのかしら?」

「何を気にしているのだ?」ガレスは自分のことは棚に上げ、嫉妬を感じて聞いた。彼もまた、よろいを身につけ、馬上の人となり、父の名にかけて騎馬試合に出場したかった。だが、彼は戦士ではなかった。誰もがそのことを知っていた。

ヘレナは素っ気なく手を振りながら、彼を無視した。「あなたは男じゃないわ。」彼女はばかにしたように言った。「こういうことはわからないでしょう。」

ガレスは赤くなった。ヘレナを叩きのめしたくなったが、今はそういうわけにいかない。今日の祭事を見るため、他の者と一緒にスタンドに座るヘレナに付き添った。今日は物事がどんどん悪い方向に進む。ガレスはみぞおち辺りに何か引っかかるような違和感を覚えた。長い一日になるだろう。騎士道、華麗さ、見せかけに満ちた。傷つけ合い、殺しあう男たち。自分が蚊帳の外に置かれる日。自分が嫌いなものをすべて象徴する日。

そこに座りながら、ガレスは思案した。行事が全面的な戦いに発展することを密かに願った。血みどろの戦いが目前で起こり、この場にある良きことすべてがずたずたに引き裂かれて消滅するすることを。

いつか自分は自分の思い通りにするぞ。いつか国王になってやる。いつか。

第八章

ソアは、エレックの従者が人ごみをかき分けて進んで行くのに全力でついていった。競技場での出来事以来、あまりにも目まぐるしく色々なことがあるのでソアは自分の周りで何が起きているのか整理できていなかった。心の内ではいまだに震えが止まらなかった。自分がリージョンへの入隊を許されたこと、エレックの第二従者に指名されたことが信じられないでいた。

「坊や、言ったと思うが、ちゃんとついて来るように!」フェイスゴールドはぴしゃりと言った。

ソアは「坊や」なんて呼ばれるのが嫌でたまらなかった。従者はほんの二、三歳年上なだけだ。フェイスゴールドは、まるでソアを巻こうとしているかのように人ごみを抜けて疾走していく。

「ここはいつもこんなに混んでいるんですか?」ソアは必死に追いつきながら呼びかけた。

「もちろん違う。」フェイスゴールドが叫んで返す。「今日は、一年で一番日が長い夏至だというだけじゃなくて、国王が王女の婚礼に選んだ日なんだ。そしてマクラウド家に史上初めて門を開放した日でもある。これほど人で溢れかえったことはない。前例がないんだ。こんなに混むとは思わなかった!遅れそうだ!」人ごみの中を急ぎながら、あわててそう言った。

「どこに向かっているんですか?」ソアが聞いた。

「忠実な従者なら誰でもすることをしようとしているだけだ。我が騎士の準備を手伝うのだ!」

「何の準備ですか?」ソアは息を切らしながら、せき立てるように言った。どんどん暑くなる。額の汗を拭った。

「国王の騎馬試合だよ!」

やっとのことで人ごみが切れるところまでたどり着き、衛兵の前で止まった。衛兵はフェイスゴールドの顔を見て、他の者に通らせるよう合図した。

二人はロープの下をくぐり、広い場所に足を踏み入れた。人ごみはもうない。ソアは目を疑った。上のほうに騎馬試合のコースが見える。ロープの向こうには観客が詰めかけ、土のコース上には、あちこちに大きい軍馬がいる。これほど大きい馬をソアは見たことがない。馬の上にはあらゆる種類の鎧を身に付けた騎士たちがいる。両国から集まった騎士たちがシルバー騎士団に混ざっている。各地方から集い、黒い鎧も白の鎧もある。皆、兜とあらゆる形、大きさの武器を身につけている。まるでこの騎馬試合のコースに世界中から人が集まったかのようだ。

競技は既に始まっている。ソアが聞いたこともない土地から来た騎士たちが、槍や盾で闘っている。音がするたび、観衆から短い歓声が上がる。間近で見る馬の強さやスピード、武器がたてる音は信じられないほどだった。人を死に至らしめる技だ。

「スポーツにはとても見えない!」コースに沿って行くフェイスゴールドに付き従いながら、ソアは言った。

「スポーツではないからだ。」フェイスゴールドは武器の音が響くなか、大きな声で返した。「試合の形をとってはいるが、真剣勝負だ。毎日、死ぬ者もいる。これは闘いだ。無傷で歩いて帰れたらついているが、それができる者は少ない。」

ソアは二人の騎士が互いに襲いかかり、ものすごいスピードで衝突するのを見上げた。金属同士が激しくぶつかるすさまじい音がしたかと思うと、一人が落馬し、ソアから数歩離れた地面に背中から落ちた。

観客は息をのんだ。騎士は起き上がらなかった。ソアは木製の槍の柄が肋骨にささっているのを見た。彼は痛みにうめき、口から血が流れた。従者が数人、世話をするために駆け寄り、騎士を試合場からひきずり出した。勝利を収めたほうの騎士はゆっくりと練り歩き、観客の歓声に槍を高々と挙げた。

ソアは驚いた。このスポーツがこれほど致命的なものだとは思っていなかった。

「あの少年たちのしたことが、今では君の仕事だ。」フェイスゴールドが言った。「君はもう従者だ。正確に言えば、第二従者だが。」

彼は立ち止まって、ソアに近寄った。あまりに近すぎて口臭がした。

「そして、エレックに応えるのは私の役目だということを忘れないで欲しい。 君は私に従うのだ。君の仕事は私の補佐をすること、わかったかな?」

ソアは、言われたことを飲み込もうと努めながら頷いた。それまで、頭の中では全く違うことを思い描いていた。そして自分にはどのような運命が待ち構えているのか、いまだにわからずにいた。フェイスゴールドが自分の存在を脅威に感じ、敵が現れたと思っているのが見てとれた。

「あなたがエレックの従者を務めるのに首を突っ込もうとは、僕は思っていません。」ソアは言った。

フェイスゴールドは、短く、小ばかにしたように笑った。

「君がそうしようと思ったところで、私に干渉することはできない。一歩下がって、私の言う通りにしていれば良いんだ。」

そう言うと、フェイスゴールドは振り返り、ロープの後ろの曲がりくねった通路を急ぎ足で進んで行った。ソアは必死に後を追う。すぐに迷路のような馬屋に出た。ソアは狭い廊下を歩いて行く。周りでは軍馬が闊歩し、従者たちが緊張して馬の世話をしていた。フェイスゴールドはあちこちを曲がって進み、大きくて見事な馬の前で止まった。ソアは一息つかなければならなかった。これほど大きく、美しいものが柵の向こうにあるのはおろか、現実に存在しようとはとても信じられない。すぐにでも戦に出られそうだ。

「ウォークフィン」フェイスゴールドが言った。「エレックの馬の一頭で、彼が騎馬試合に好んで使う。馴らすのに手こずるが、エレックがなんとか手なずけた。ゲートを開けてくれ。」フェイスゴールドが命令した。

ソアは彼を見て不思議に思った。ゲートのほうを見ながら考えた。足を踏み出し、板の間の止め釘を引いたが、何も起こらない。強く引っ張ると動いたので、木戸を静かに開けた。

その瞬間、ウォークフィンはいなないて反り返った。そして木を蹴るとソアの指先を食べようとした。ソアは痛みに指を引っ込めた。

フェイスゴールドが笑った。

「君に開けさせたのはそういう訳だ。次はもっと早くやると良い。ウォークフィンは待たないからな。特に君のことは。」

ソアは怒った。フェイスゴールドは癇に障る。どうしたら彼のことを我慢できるか、ソアにはわからなかった。

ソアは素早く木戸を開けると、今度は馬が脚をバタバタと動かしている場所をよけた。

「外に出しましょうか?」ソアは不安に思いながら聞いた。ウォーフキンが足を踏み鳴らしたり、体を揺すったりしている時に、本当なら手綱を握っていたくなどなかった。

「もちろんしなくて良い。」フェイスゴールドは言った。「それは私の役目だからね。私が言った時に餌をやるのが君の仕事だ。それと糞の始末だ。」

フェイスゴールドはウォーフキンの手綱を掴み、馬屋の中を引いて行った。ソアは感情を抑えて、見つめた。自分が思い描いていた入団の様子とは違う。どこかしらかで始めなければならないのはわかっていたが、これだと自尊心が傷つく。彼が思い描いていたのは、戦争、栄光、闘い、訓練、そして自分と同じ年の少年たちとの競争だった。自分が奴隷として仕えることなど考えてもみなかった。自分は正しい選択をしたのだろうか、と悩み始めていた。

二人は暗い馬屋を離れ、明るい太陽の下に出た。騎馬試合場の裏手だ。ソアは明るい場所に出たため目を細め、互いに相手に向かって突進していく騎士たちに声援を送る群衆の声に一瞬圧倒された。聞いたこともないような、金属がぶつかり合う音。大地はどっしりした馬の足取りに震えた。

周りでは数十人の騎士とその従者たちが準備をしていた。従者は騎士のよろいを磨き、武器に油を差していた。鞍とストラップをチェックし、騎士が馬にまたがり、名前を呼ばれるのを待つ段になると、武器を再び点検した。

「エルマルキン!」案内者が名前を呼んだ。

ソアが聞いたこともない地方から来た、体格の良い赤い鎧の騎士が、馬を駆ってゲートから出ていった。ソアは飛び上がり、なんとかよけることができた。騎士は狭いコースを突進して行き、彼の槍は相手の盾をかすって落ちた。二人の武器は音を立て、もう一方の騎士の槍が当たってエルマルキンは後方に飛ばされ、背中から落ちた。歓声が上がった。

エルマルキンはすぐに起きて立ち上がると、くるりと向きを変え、ソアの脇に立っていた従者に手を伸ばした。

「槌矛を!」騎士が叫んだ。

従者はすぐに行動に移り、武器棚から槌矛を取るとコースの中央に向かって駆けて行った。エルマルキンに向かって走っていく間にも、相手の騎士は円を描いて戻り、再び突撃しようとしていた。従者がたどり着いて主人の手に槌矛を握らせようとしたその時、騎士が二人の上に襲いかかってきた。従者は間に合わなかった。相手は槍を振り落とすのと同時に、自分の槍で横からエルマルキンの頭を打った。エルマルキンはぐらつき、すごい勢いで回った後、顔から地面に落ちた。

彼は動かなかった。頭から血を出しているのが、ソアの場所からも見えた。土を染めて。

ソアは息を止めた。

「あまり良い光景じゃないな。」

ソアは振り向いて、そばに立っているフェイスゴールドをにらみ返した。

「 心を鬼にしないとな、坊や。これは戦いなんだ。そのさなかにいるんだよ。」

騎馬試合のメインコースが開けられ、群集は急に静かになった。ソアは、期待が高まっている空気を感じた。他の競技がすべて終わったらこの試合が始まる、という期待だ。ケンドリックが馬にまたがり、槍を手にして登場した。

はるか向こう側では、ケンドリックに顔を向け、マクラウド家のものとはっきりわかる鎧を着た騎士が出てきた。

「マッギル家対マクラウド家の戦いだ。」フェイスゴールドがソアにささやいた。 「両家は千年もいがみあっている。この試合で片がつくとは思えない。」

両騎士が面頬を下げ、ホルンが鳴った。叫び声とともに、二人は相手に向かって突進していった。

ソアは騎士たちのスピードに驚いた。あっという間に撃ち合いとなり金属音が上がった。ソアは耳を手で覆いそうになった。二人が落馬した時、観衆は息をのんだ。彼らは立ち上がり、兜を投げた。従者たちが駆け寄り、短刀を渡した。騎士たちは全力で戦った。ケンドリックがナイフを手に立ち回るさまに、ソアはうっとりした。美しかった。だがマクラウドも良く戦っていた。行きつ戻りつして彼らは互いに相手を消耗させ、自分は決して譲歩しなかった。

そしてついに二人の剣はぶつかり合い、互いに相手の剣を叩き落した。従者たちは槌矛を手に走っていった。が、ケンドリックが槌矛に手を伸ばした瞬間、マクラウドの従者が手にした武器でケンドリックを背中から攻撃した。ケンドリックは地面に倒れ、観衆は息をのんだ。

マクラウドの騎士は自分の剣を取り、進み出てケンドリックの喉に突きつけた。ケンドリックには選ぶ余地がない。

「降参だ!」彼は叫んだ。

マクラウド家から勝利の叫びが上がった。マッギル家からは怒りの声が。

「いんちきだ!」マッギル側は叫んだ。

「いんちきだ!いんちきだ!」怒りのコーラスがこだました。

群衆は怒りを募らせ、やがて抗議の声が大きくなって散らばり始めた。マッギル、マクラウド両国の群衆は歩いて互いに接近していった。

「これはまずいぞ。」フェイスゴールドとソアはそばで見ていたが、フェイスゴールドがソアにそう言った。

すぐに群衆は怒りを爆発させた。殴り合いが始まり、けんかになった。大混乱に陥った。男たちは激しく動き、互いの髪をつかんでは地面に倒した。人が膨らみ、全面戦争に発展する恐れがあった。

ホルンが鳴り、両国の衛兵たちが入ってきた。かたまりになっている群衆を分けていく。ホルンが再び鳴り、マッギル王自身が王座から立ちあがると皆静かになった。 「今日、小競り合いはあってはならない!」王としての威厳に満ちた声で言った。「この祝いの日に、そしてこの宮廷で争うことは禁じる!」

群衆は次第に鎮まっていった。

「偉大なる民族間の競技であるなら、勝敗を決めるのは、それぞれの側の戦士、勝者一人だけである。」

マッギルは、側近とともに離れたところに座しているマクラウド王を見た。

「それでよろしいか?」マッギルは大声で言った。

マクラウドは厳かに立ち上がった。

「承知した!」響きわたる声で言った。

両方の観客席で歓声が湧いた。

「最高の戦士を選ばれたい!」マッギルが言う。

「既に決めておる。」マクラウドが答える。

マクラウドの側から手強そうな騎士が馬に乗って現れた。ソアが見たこともないような大男だ。まるで大岩のようだ。長いあごひげがあり、顔に刻み付けられたようなしかめ面をしている。

ソアが自分のすぐ近くで動きがあるのを感じた。エレックが歩み寄り、ウォーフキンに跨って進んでいく。ソアはつばを飲み込んだ。目の前でこのようなことが起きているとは。エレックを誇らしく思う気持ちでいっぱいになった。

そして不安につぶされそうになった。自分は従者で、仕える騎士が戦いに臨むのだ。 「何をすれば良いんですか?」ソアはあわててフェイスゴールドに尋ねた。

「後ろに立って、私が言ったようにすればよい。」彼が答えた。

エレックは前進し、騎馬試合のコースに入った。両騎士はコース内で向き合っている。馬は緊張した状況で足を踏み鳴らしている。ソアはじっと待ち、見つめる。心臓が激しく鼓動する。

ホルンが鳴り、二人が突撃を始めた。

ソアはウォーフキンの美しさ、優雅さに目を疑った。水中から跳ね上がる海の魚のようだ。敵の騎士は巨大だが、エレックは優美ですらりとした戦士だ。頭を低くして空気を切り裂いていく。シルバーの鎧は波打ち、他のどの鎧よりも見事に磨き上げられている。

二人がぶつかった時、エレックは槍を完璧な角度で掲げて、体を横に乗り出していた。攻撃をかわしながら、相手の盾の中心を撃った。

山のような大男が後ろに崩れ、地面に落ちた。大岩が着地したようだった。

エレックが通り過ぎ、回って戻ってきた時、マッギル側の観衆が歓声を上げた。面頬を上げ、槍の先端を相手の喉に向けた。

「降参するのだ!」エレックが言った。

騎士はつばを吐いた。

「絶対にするものか!」

そして腰に隠した袋に手を伸ばし、一握りの土をつかむと、エレックがよける間もなく、エレックの顔めがけて投げつけた。

エレックは驚き、目に手を当てた。そして槍を落として落馬した。

エレックが目に手をやりながら落ちた時、マッギル側の観衆は怒りで罵声や金切り声を発し、泣いた。騎士は時間を無駄にせず、エレックに走り寄ると膝でエレックの肋骨を打った。

エレックは横転し、騎士は大きな石をつかんで高く上げて、今にもエレックの頭蓋骨を直撃しようとしていた。

「だめだ!」ソアは叫び、自分を抑えきれなくなり、前に飛び出した。

ソアは騎士が石を降ろすとき、恐怖に震えながら見つめた。最後の瞬間にエレックはどうにか転がってよけた。石は、地面のエレックの頭があった辺りに食い込んだ。ソアはエレックの機敏さに驚いた。

彼は既に立ち上がり、きたない手を使う相手に対峙していた

「短刀を使え!」国王たちが声を上げた。

フェイスゴールドは突然向きを変え、目を見開いてソアを見た。

「私に渡すんだ!」彼は叫んだ。

ソアの心臓はパニックに陥った。振り向いてエレックの武器棚から剣を探した。目の前には気が遠くなるほど沢山の武器が並んでいる。手を伸ばしてつかみ、フェイスゴールドの手に渡した。

「愚か者!それはミディアムソードだ!」フェイスゴールドが叫んだ。

ソアは喉の渇きを感じた。国中が自分を見ているような気がした。パニックに陥って不安で目がかすんだ。どの剣を選んだら良いかわからない。集中できなかった。フェイスゴールドが前に出てきてソアを押しのけ、短刀を自分でつかんだ。そして騎馬試合のコースへ走り出て行った。

ソアは彼が行くのを見ながら、ひどく無力なのを感じていた。この大勢の観客の前で、もし外に出て行ったのが自分であったなら、と考えると膝が震えた。

相手騎士の従者が先に着き、騎士が飛びかかってきたため、エレックは危ういところでよけなければならなかった。やっとフェイスゴールドがたどり着き、短刀を手渡した。その瞬間、騎士がエレックを襲った。が、エレックは手際よく、最後の瞬間まで待ってからよけた。

だが、騎士は攻撃を続けたため、エレックが居た場所に立っていたフェイスゴールドに運悪く当たってしまった。騎士はエレックを逃したことに怒り、フェイスゴールドの髪を両手でつかみ、激しく頭突きしてきた。

骨が折れる音がし、フェイスゴールドの鼻から血が噴き出し、彼は地面に倒れ、ぐったりとなった。

ソアはショックのあまり口を開けたまま立ち尽くした。信じられなかった。観衆も同じ思いだった。やじる声が聞こえた。

エレックは剣を振ったが騎士をかすり、2人は再び向かい合った。

ソアはその時、自分は今エレックのたった一人の従者なのだと気づき、はっとした。自分は何をすればよいのだろう?このような事態にはまだ備えていない。が、国中が注目している。

二人の騎士は強打の応酬をし、激しく攻撃し合っている。マクラウドの騎士がエレックよりも力が強いのは明らかである。しかし、エレックは戦い方がうまく、ずっと俊敏だ。剣を振りまわしてはかわし、どちらかが優位に立つこともなく続いている。

ついに、マッギル国王が立ち上がった。

「長槍だ!」王が叫んだ。

ソアはどきりとした。自分の出番だ、とわかっていた。

振り返って棚を探し、これだと思う武器を取った。革の柄をつかんだ時、これであってくれ、と祈った。

コースに飛び出し、何千人もの目が自分に注がれているのを感じた。エレックを目ざし、全力を尽くして走った。そして武器を手渡した。自分が先にたどり着いたことを誇らしく思った。

エレックは槍を取ると振り回し、相手に立ち向かう準備を整えた。エレックは栄誉ある騎士である。相手の武器の準備ができるまで攻撃せずに待った。ソアは急いで騎士たちの戦いの場から離れた。フェイスゴールドの二の舞にはなりたくない。その間に、ぐったりとなっているフェイスゴールドを安全な場所へ移した。

ソアは観ていて、何かがおかしいと気づいた。エレックの相手は槍を取り、まっすぐ上に上げ、おかしな動作でそれを下げた。その時突然ソアは、それまでなかったような感覚で、自分の世界が 一点に集中するような感覚を覚えた。何かが変だと本能的に感じる。目が騎士の槍の穂先に注がれた。じっと見つめているうちにそれが緩んでいることに気づいた。騎士は槍の穂先を手裏剣のように使おうとしているのだ。

騎士が槍を降ろした時、先鋒が離れ宙を泳いだ。エレックの心臓目がけて回転して行く。数秒でエレックは死ぬ。反応する間がない。ぎざぎざの刃からして、武器も貫くに違いない。

その瞬間、ソアは体が熱くなった。うずく感覚を覚えた。暗黒の森でサイボルドと戦う時に感じた、あの感覚である。世界がゆっくり回っている。槍の先端がスローモーションで回っているのが見える。自分でも持っているとは知らなかったエネルギー、熱が自分の中から出ているのがわかる。

前に進み出て、自分が穂先よりも大きい感覚があった。心の中で、意志の力でそれを止めようとした。止まるよう命令した。エレックが傷つくのを見たくない。特にこんな方法では。

「だめだ!」ソアが叫んだ。

もう一歩前に進み、槍の穂先に向かって手をかざした。

エレックの心臓を射る寸前で、穂先が宙に浮いたまま止まった。

そして何事もなく、地面に落ちた。

騎士たちが振り返ってソアを見た。国王たち、何千人もの観衆もまた。

全世界が自分を見ているのを感じた。そして自分が今したことを皆が見ていたのだと気づいた。自分が普通でないこと、自分には何か力が宿っていることが皆にわかった。試合に影響を与えたこと、エレックを救ったこと、そして王国の運命を変えたことも。

ソアはそこに根が生えたように立ち尽くした。何が起きたのだろう、と考えながら。自分が他の人々と同じではないことが、今はっきりとわかった。自分は違うのだ。

だが、自分はいったい何者なのか?

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Возрастное ограничение:
16+
Дата выхода на Литрес:
10 октября 2019
Объем:
132 стр. 4 иллюстрации
ISBN:
9781632910141
Правообладатель:
Lukeman Literary Management Ltd
Формат скачивания:
Первая книга в серии "魔術師の環 第一巻"
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